ソフトバンクグループの孫正義氏が率いる世界最大のベンチャーキャピタル(VC)ファンドが、再び市場に波紋を広げている。
ビジョン・ファンドが米エヌビディアの保有株全てを10月に58億3000万ドル(約9000億円)で
売却。テクノロジー株の過熱懸念を改めて呼び起こした。
この取引は孫氏にとって急転換となる。今年1-3月期には人工知能(AI)半導体で世界をリードする
エヌビディアの株式を積極的に買い増していた。
エヌビディア株は年初来で40%余り上げ、株価収益率(PER)が42倍と、1年前の約35倍から大きく上昇した。AIバブルが形成されているかどうかを問うのは健全だが、ソフトバンクGの売却をもって相場の天井と見なすのは早計だ。孫氏はウォーレン・バフェット氏ではない。
ソフトバンクGはここ数年、ユニコーン(企業価値10億ドル以上の未公開企業)発掘という本業から離れ、株式市場での取引に手を広げている。
2020年後半にはSBノーススターというヘッジファンド事業を立ち上げ、米国株デリバティブ(金融派生商品)取引に数十億ドルを投じた。この動きは市場のボラティリティーを高め、「ナスダックのクジラ」とやゆされるきっかけとなった。
しかし22年の前半までに、累計7460億円の損失を計上し、SBノーススターは大幅な縮小を余儀なくされた。こうした不振に加え、孫氏には切実な資金需要もある。ソフトバンクGは対話型AI「ChatGPT」を手がける米
OpenAIへの出資比率を確保するため奔走している。
ソフトバンクGは今年3月、OpenAIの資金調達ラウンドを主導。年末までに300億ドルを投じるとも約束したが、実際に拠出は75億ドルにとどまっている。
資金確保のため、ソフトバンクGはTモバイルUSの保有株を売却し、普通社債やハイブリッド債を発行。さらに英
アーム・ホールディングスの株式を担保にマージンローン枠を拡大した。
今回のエヌビディア株売却を含め、ソフトバンクGは今年、純額300億ドルのファイナンスを確保しており、ちょうどOpenAI出資額に相当する。
この取引を完了させなければ、ソフトバンクGの収益維持は難しい。7-9月期決算では、純利益が2兆5000億円と市場予想(約4180億円)を大きく上回ったが、その背景にはサム・アルトマン氏率いるOpenAIへの投資効果がある。ソフトバンクGは同社株の公正価値評価益として128億ドルを計上した。
OpenAI株の公正価値を引き上げたのは、同社が最近完了した
従業員保有株の売り出しだ。そこで、OpenAIの企業価値は5000億ドルと見なされたことを根拠としている。
これはソフトバンクGの出資開始時のほぼ2倍の評価額だ。ただし、こうした未実現利益の半分以上はフォワード契約によるもので、年内に追加出資を完了できなければ取り消される可能性がある。
AI投資が功を奏し、孫氏が得る見返りも大きくなっている。ソフトバンクGの株価は10月に過去最高値を更新。主な要因は、エヌビディアなどに中央演算処理装置(CPU)アーキテクチャーを提供するアームを傘下に持つことに加え、OpenAI株の評価益を背景にした好業績だ。
こうした成功を受け、孫氏はさらなる
AI関連の大型買収を探っている。だが、野心に見合う資金力は十分とは言えない。
膨大なポートフォリオの再編を進める過程で、ソフトバンクGは最も手元流動性の高い資産を売却して資金を捻出する必要がある。エヌビディア株は最初の売却対象に過ぎず、今後も同様の動きが続く公算が大きい。
ソフトバンクGが20年に大規模なデリバティブ取引に乗り出した際、トレーダーの間では同社による株式市場参入は危険で、極端なボラティリティーを引き起こしているとの不満が広がった。残念ながら、ナスダックのクジラが再び戻ってきた。
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(シュリ・レン氏はブルームバーグ・オピニオンのアジア市場担当コラムニストです。同氏は投資銀行に勤務した経歴もあり、米経済紙バロンズでは市場担当の記者でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:
The Nasdaq Whale’s Nvidia Sale Smells Desperate: Shuli Ren(抜粋)
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