世界は5日の米大統領選を固唾(かたず)をのんで見守っている。もはや米国がかつてのように全てを決定づけることはないにしても、依然として強力な影響力を持つことに変わりはない。
選挙結果が5つの主要なグローバル課題に与える影響を以下にまとめた。
ウクライナとNATO
ロシアによる全面侵攻から2年半余りが経過し、ウクライナは高性能兵器から給与の支払いを賄う資金に至るまで、あらゆる面で同盟国からの支援に頼っている。ロシアのプーチン大統領が交渉に応じるようウクライナはさらなる支援を当てにするが、優位に立つように見えるプーチン氏は、同盟国の後押しが徐々に弱まると見越して妥協の意思を示していない。
ロシアのミサイル攻撃を受けたキーウの小児病院(7月)
Photographer: Roman Pilipey/AFP/Getty Images 民主党候補のハリス副大統領は必要な限り支援を続けると約束しているが、多額の追加資金供与への懐疑論が議会で強まる可能性が高い。ウクライナはロシア領内を深く攻撃するため同盟国のミサイル使用を許可するよう要請し、安全保障確保に不可欠とゼレンスキー大統領が主張する北大西洋条約機構(NATO)加盟交渉への招待も求めている。バイデン大統領と同じようにハリス氏はこれまでのところウクライナの要求に応じる約束を拒んでいる。
共和党候補のトランプ前大統領は、プーチン氏とゼレンスキー氏に交渉させることで大統領選後「24時間以内」に戦争を終結させると発言した。方法の詳細は明らかにしていないが、同氏と副大統領候補のバンス氏は、ウクライナに譲歩する用意がなければならないと繰り返し示唆。 さらに米国がなぜこれほど多額の資金を費やしてウクライナを支援するのか疑問視し、欧州の同盟国がより多くの負担を引き受けるべきだとしている。
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の視点:
トランプ氏は、高額でリスクの高い外国での戦争から撤退したいという願望に突き動かされるだろうが、米国の支援が突然停止すればウクライナ軍の崩壊を招きかねないという不安がそれを抑えるだろう。米国の支援は減る可能性が高く、ウクライナの戦況悪化や不足を穴埋めする欧州への圧力につながるが、ロシアの近いうちの勝利に道を開くわけではない。
トランプ氏は義務を果たさない国への支援を見合わせる恐れがあり、NATO加盟国にとって防衛費の増額圧力が増す。国内総生産(GDP)比3.3%という米国並みの防衛支出は、欧州の債務を2034年までに2兆8000億ドル(約426兆円)増やすことになりかねない。
ハリス氏にとって、追加支援に対する支持が米議会で勢いを失い、ウクライナの戦況が悪化すれば、トランプ氏が求めるような条件でないにしろ、外交による戦争終結努力の必要性が高まりそうだ。
中東
イスラム組織ハマスによる2023年10月7日のイスラエルへの奇襲攻撃で約1200人が殺害されて以来、米国はイスラエルへの武器供給を続けながらも紛争拡大阻止に取り組んできたが、中東地域で戦闘は徐々に広がっている。
4万3000人を超える市民と戦闘員が死亡したパレスチナ自治区ガザへの攻撃でハマスに壊滅的な打撃を与えたイスラエル軍は現在、隣国レバノンに展開し、親イラン民兵組織ヒズボラと戦闘を繰り広げている。イスラエルはさらに、ハマスとヒズボラを支援するイランや、イエメンのフーシ派とも交戦している。
イスラエルの動きの背景にあるのはイランの核開発計画だ。イランは兵器に転用可能な高濃縮ウランの製造に近づいているが、米国とイスラエルはこれを阻止すると表明している。
イスラエル軍によるベイルート南部の空爆(10月8日)
Source: AFP/Getty Images ハリス氏はイスラエルが必要な自衛手段を確保できるようにすると明言する一方で、ガザの民間人の苦難を軽減するよう同国に求めている。ハリス氏は、これまでのところ結果に結びついていないバイデン政権の停戦の呼びかけを支持してきた。
ハリス氏は、ネタニヤフ首相が否定してきたイスラエルとパレスチナの2国家共存案を支持しているが、それをどのように実現するかについては明らかにしていない。また、ネタニヤフ氏を米国の盟友と見なせるかという問いに答えを避ける一方で、選挙キャンペーン中にイランを米国の最大の敵と呼んだ。
一方、トランプ氏は、自分が大統領だったら昨年10月7日の攻撃は起こらなかったと述べているが、具体的にどのように防げたかは説明していない。イスラエルについては「PR活動をもっとうまくやるべきだ」とし、この問題を早く片付けるよう呼びかけた。9月の大統領候補討論会では、パレスチナ国家を支持するかどうかという質問への答えを避けた。
イランについては、孤立させるための追加措置を講じるべきだとしている。トランプ氏は1期目に、イスラエルと一部アラブ諸国との関係を正常化する「アブラハム合意」の仲介役を務めた。
BEの視点:
ハリス氏は、地域の弱者としてイスラエルを強く支持するバイデン氏の姿勢は時代にそぐわないと見ている可能性がある。ハリス氏が当選した場合、紛争による犠牲者を減らすため、イスラエルにより強い圧力をかける可能性が高い。
一方、トランプ氏の下で予想されるベースシナリオはイスラエル支援の継続だが、周辺地域に対する外交的関与は弱まる見込み。ただ、トランプ氏が諸外国との取引を好むことや、スローガン「米国を再び偉大に(MAGA)」の強力な支持層を考えると、予想外の展開が起こる可能性はなおある。
世界経済の主要リスクは原油価格上昇だ。しかし10月26日のイスラエルによる比較的抑制されたイラン空爆後、原油の地政学的リスクプレミアムはゼロ近辺にとどまっており、両候補とも緊張をさらに高めようとはしていない。
関税
保護主義の高まりを懸念する中央銀行当局者やエコノミストは、米国が自国市場への門戸を閉ざす動きに出れば、広範な貿易戦争を招き、世界の成長を鈍化させインフレを引き起こす可能性があると危惧している。
洋山深水港(上海)
Photographer: Qilai Shen/Bloomberg ハリス氏は、トランプ政権時代の対中関税を延長し国内のクリーンエネルギーやインフラ、ハイテク投資に多額の補助金を出すバイデン政権の決定を支持した。同氏はいくつかの貿易協定を受け入れているが、上院議員時代には反対した協定もあり、労働者と環境の保護を盛り込もうとした。
トランプ氏は、米国内の投資を促進する手段として、輸入品全般に最大20%の関税を課すこと、また中国からの輸入品には最大60%の関税をかけることを提案している。ただし、一部の数字が交渉戦術である可能性も認めている。トランプ氏は、現在の国際貿易システムは米国の利益を損なうように仕組まれていると主張し、大統領に返り咲いた場合はバランスを取り戻すと約束している。
BEの視点:
トランプ氏の1期目には、米中貿易の何千億ドルもの取引に25%の関税が課された。これは多くのニュースの見出しを飾ったが、マクロデータへの影響はそれほど大きくなかった。2期目に中国に対して60%、その他に対して20%の関税を課すという公約を実施すれば、状況は一変するだろう。トランプ氏が選挙公約を実行し、それに対して世界が報復措置に出た場合、BEのモデルでは、モノの国際貿易における米国のシェアは現在の21%から2028年には9%にまで落ち込むと予測される。
中国にとっては、米国への輸出のほぼ90%が消滅することになる。米国を主要貿易相手国とするメキシコとカナダでは減少率は50%を超える。ハリス氏の下では、重要な分野・技術に限定して中国がアクセスできないようにするバイデン政権の「小さな庭と高いフェンス(スモールヤード・ハイフェンス)」政策が継続される可能性が高い。しかし、ハリス氏の現実主義と、政策の要職における担当者の交代により、庭の広さとフェンスの高さの両方が予想とは異なる可能性がある。
中国・台湾
米国が対中戦略を進める傍ら、中国は経済的・軍事的な影響力を強めており、中国との競争を管理しようとする米国の取り組みは一段と緊張をはらむようになってきている。
中国は自国領土の一部と主張する台湾の周辺で軍事演習を強化。台湾とその住民は、圧力がエスカレートし戦争が勃発に場合に備え、米国とその同盟国に支援を求めている。半導体製造の世界的中心地である台湾は、世界経済にとって不可欠な存在だ。
台湾・台中市の海岸地域で実弾砲撃訓練する台湾軍(8月)
Photographer: Daniel Ceng/Anadolu/Getty Images ハリス氏は、重要な半導体やその他機密技術の輸出規制を含むバイデン政権の対中アプローチを踏襲し、台湾の安全保障(ただし、中国が強く反対している台湾独立は認めない)を確保するという米国のコミットメントを支持。また、中国に対抗するため、この地域全体で同盟関係を拡大することも支援している。
トランプ氏は、「重要分野」における対中依存を低減させるため、中国からの輸出品に広範囲に関税を課すことを公約しているが、台湾については米国の半導体ビジネスを「盗んだ」と主張している。
台湾は自ら安全保障により多くの資金を投じるべきだとの考えも示すが、台湾を巡る主張の詳細については説明していない。
また、中国が台湾を攻撃した場合、台湾を防衛するとの明言も避けている。これは米国が長年続けてきた台湾政策に回帰するものだ。バイデン大統領は「前例のない攻撃」があれば米軍は台湾を防衛すると表明している。
トランプ氏は米国の同盟国である日本と韓国に対し、防衛費増額を求めている。同氏は過去に軍事的関与を減らし、貿易を制限するとけん制したこともある。
BEの視点:
トランプ氏であれハリス氏であれ大統領に就任した場合、対応の余地は限られる。
トランプ氏勝利の場合、最も高い可能性は、台湾への安全保障支援を継続するものの、米国における半導体工場の建設を加速させ、米国製兵器の購入を増やすよう台湾に圧力をかけるというより取引的なアプローチだ。
ハリス氏は米国の台湾防衛に関し戦略的曖昧さを残すことを再確認すると予想される。つまり、台湾防衛に関与するとの言質を与えないことだ。ただ、バイデン氏が従来の台湾政策から逸脱し、全面関与を公言したため、米国による台湾支援の後退と中国政府が受け取る可能性もある。
台湾海峡を巡る対立は、世界経済にこれ以上ないほど大きい影響を与える。半導体のサプライチェーンにおける台湾の役割が除外されれば、世界全体の国内総生産(GDP)への影響は最大10兆ドルに上り得る。
移民と中南米
ここ数年の米国への移民流入急増で、この問題は政治課題の上位に急浮上した。政府の統計では、新型コロナウイルス禍以降、移民流入は経済成長の原動力として不可欠だったことが示されているが、規制強化で今年は流入が鈍化している。
米・メキシコ国境のリオグランデ川の土手で休む移民たち
Photographer: Justin Hamel/Bloomberg ハリス氏は、米南部の国境を越えようとする人々の流入を食い止めるため、不法移民と亡命申請の制限強化を支持。新たな亡命制限と手続きや判事への予算増額を組み合わせた超党派法案を推進すると約束している。また、合法的な移民を増やし一部移民に市民権への道筋を提供する措置も提唱している。
トランプ氏は1100万人余りの不法移民の国外追放とメキシコ国境での収容施設建設、兵士の配置を求めているほか、亡命や出生による市民権取得といった合法的移民の受け入れ範囲を厳しく制限する考えを打ち出している。
BEの視点:
トランプ氏の公約である国境閉鎖と不法移民の国外追放には、多大なコストがかかる。新たな移民流入をほぼゼロに抑え2020年以降に到着した移民を国外追放した場合、28年までに米国の国内総生産(GDP)を3%押し下げる。
エルサルバドルやグアテマラ、ホンジュラスといった移民の出身国には本国送金で年間GDPの最大5分の1に相当する恩恵をもたらしているが、米国からの大量強制送還により、送金総額は減少する可能性がある。
ハリス氏は国境警備に関して、以前よりも厳格な姿勢を取っているものの、トランプ氏ほど厳しくはなく、米国の成長や送金への影響は比較的小さいだろう。
原題:
What a Harris or Trump Win Would Mean for the World(抜粋)







