米国の有権者は、輸入品への関税を大幅に引き上げれば生活が豊かになるというドナルド・トランプ氏の訴えを支持しているようだ。
11月の大統領選で共和党候補トランプ氏が勝利し、この計画を実行に移せば、同氏の言葉を信じた有権者はショックを受けるだろう。
今回の大統領選は、米国の通商政策にとって歴史的に極めて重要な選挙になるかもしれない。2人の候補者が掲げる政策は根本的に異なり、勝者は一方的に行動するかなりの権限を手にする。
トランプ氏は自らを「ミスター関税」と呼び、高関税が政府に大きな収入をもたらした1890年代終盤のウィリアム・マッキンリー政権を引き合いに出す。トランプ氏は輸入関税の引き上げは米国の製造業、投資、雇用、経済成長を活性化させると主張。全輸入品に一律20%、中国からの輸入品には最大60%の関税を課すとしている。
対照的に民主党候補ハリス副大統領が勝利した場合には、関税政策に大きな変化はないだろう。ハリス氏は、関税の引き上げは消費税のように作用し、輸入品も国産品も価格が上がると主張している。恐らく同氏は、国家安全保障にとって重要な産業や、外国の不公正な貿易慣行によって脅かされている産業を保護するために、関税政策を選択的に用いるだろう。
多くの経済学者と同様、筆者もハリス氏の見解を支持する。最近行われたある調査では、95%のエコノミストが「関税はそのかなりの部分が物価上昇を通じ、課した側の国の消費者の負担になる」という考えに同意している。
関税は生産性の低い産業を守ることで国内の生産を歪め、その国の比較優位にも悪影響を与える。また外国からの報復関税を招く傾向があり、そうなれば自国製品が外国市場で競争力を失うため、経済にはさらに悪い影響が及ぶ。
それなのに多くの有権者はトランプ氏を信じているようだ。ロイターとイプソスが9月に実施した共同世論調査では、登録有権者の56%が、一律10%の関税と中国への60%の関税を訴える候補者を支持する可能性が高いと回答した。また、ブルームバーグとモーニング・コンサルトが行った世論調査によると、すべての輸入品に10%の関税を課すとのトランプ氏の提案について、激戦州の有権者の過半数が強く賛成、またはある程度賛成だと
回答した。
なぜこうした現象が起きているのか。有権者は一般的に、トランプ氏の大統領任期中の経済実績を好意的に捉えている。2020年3月に新型コロナのパンデミックが襲うまで経済成長は堅調だった。トランプ氏が課した関税は比較的小規模で、輸入総額のわずか3%にしか相当しなかった。2019年末時点で、関税収入は国内総生産(GDP)の0.4%に過ぎない。2017年の法人減税や個人所得減税などの動きに比べれば、関税による経済への影響はほとんど気づかないほどだった。インフレ率は金融政策が目指す2%を総じて下回っていたため、インフレへの軽微な影響も問題視されなかった。
しかし今回は違う。トランプ氏が当選し、公約通りに関税を導入した場合、その影響ははるかに大きなものとなるだろう。タックス・ファウンデーションは2025年末までに平均関税率が700%上昇する可能性があると推定している。これは、経済がほぼ完全雇用に近い状態で、インフレ率が目標値を上回る状態が何年も続いた後に重なる可能性が高い。米国の生産者は国内生産を拡大し輸入品を代替するだけのリソースを見つけることができないだろう。雇用創出には途方もない費用が伴う。ある推計によれば、トランプ氏の鉄鋼関税でコストは56億ドル増加した。その間に創出された雇用は約8700人。つまり、年間で1人雇用するために約65万ドルのコストがかかった計算になる。
全面的な関税引き上げとなればインフレを招き、成長を阻害することになる。前述の通り、米国が競争優位性を欠く分野に生産がシフトすることで、生産性は低下を余儀なくされる。輸入原材料費の高騰により、米国の生産者は代替品を見つけるのに奔走せざるを得なくなり、サプライチェーンに負担がかかるため、生産性はさらに低下するはずだ。外国からの報復関税も避けられないだろう。
もしかするとトランプ氏は、関税を引き上げるのが賢策だと本気で信じているのかもしれない。いずれにせよ、トランプ氏は自分が話していることを理解していないという点を、有権者は認識しておく必要がある。
(ニューヨーク連銀の前総裁であるウィリアム・ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:
Voters Believe in Trump’s Tariffs. They’re So Wrong: Bill Dudley(抜粋)
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