ウォール街では自らを逆張り派と称する投資家が多いが、ジェイ・ゴールドバーグ氏(54)ほど潮流に逆らっている人物はいないだろう。同氏は株価が高騰する
エヌビディアに対して、弱気な立場を取る唯一のアナリストだ。
シーポート・グローバル・セキュリティーズのシニアアナリストであるゴールドバーグ氏は、株式市場の典型的な異端児には見えないし、そのように振る舞ってもいない。
「エヌビディアにはうまくいく要因よりも、うまくいかない要因のほうがはるかに多い」と同氏は話す。
エヌビディアをカバーするアナリスト80人のうち、73人が投資判断を「買い」、6人が「ホールド」としている。残る1人がゴールドバーグ氏の「売り」だ。
ゴールドバーグ氏
Photographer: Laure Andrillon/Bloomberg
ウォール街で強気論が圧倒的なのも無理はない。エヌビディア株は2020年初めからの上昇率が3000%を超え、この間のS&P500種株価指数構成銘柄の中で突出したパフォーマンスを見せる。リターンは次に続く
スーパー・マイクロ・コンピューターのほぼ倍だ。
AIブームが米経済をけん引し、株式市場を連日の最高値更新に導く中で、この上昇を支えるエンジン役の企業に逆張りする投資家はほとんどいない。
しかし、ゴールドバーグ氏はその流れに抗うことをいとわない。
「もともと少しひねくれた性格なのかもしれない。だからこそ、今のAIを巡る過熱ぶりには懐疑的だ」と同氏。「こうしたバブルは初めてではない」と話す。
ゴールドバーグ氏は12社をカバーしており、エヌビディアだけが「売り」評価だ。一方で
アップル、
ネットギア、
ブロードコム、
アーム・ホールディングスなどの投資評価は「買い」。ブロードコムとアームはいずれもAIトレードと密接に絡んでいる。
同氏によれば、AI投資のテーマは実質的に
マイクロソフト、
アルファベット、
アマゾン・ドット・コム、
メタ・プラットフォームズ、
オラクル、
オープンAIの6社の支出に集約される。これらの企業がAIインフラ整備を競い、その需要がエヌビディアを時価総額4兆5000億ドル(約688兆円)の世界トップ企業に押し上げた。このうち上場5社は今年の設備投資を前年比約67%増の約4000億ドルと見込む一方、非上場のオープンAIも1兆ドル超の支出を表明している。
ただ、このうち4社が今週決算発表を予定する中で、投資家はこれまでの巨額投資に見合う成果がほとんど得られていないことに注目し始めている。
ゴールドバーグ氏は現在の状況を、1990年代後半から2000年代初頭にかけてのIT(情報技術)バブルの通信インフラ整備に重ねる。期待されたインターネット通信量がすぐに増えなかったことで、シスコシステムズのように投資ブームで急騰した企業は急落を余儀なくされ、株価は今も2000年のピークを回復していない。
「今の展開はまさに当時のパターンに酷似している」とゴールドバーグ氏。「AI関連の投資が心理的な理由で積み上がっているが、いずれ支出は止まり、全体が崩れて再調整が起きる」とみている。
しかし、これまでのところ同氏の見立ては外れている。ゴールドバーグ氏が4月30日にエヌビディアのカバレッジを開始して以降、同社株は70%以上も上昇し、フィラデルフィア半導体株指数やアーム・ホールディングスなど自身が買いを推奨する銘柄の一部を上回るパフォーマンスを見せている。AIバブルを懸念する声が強まる中でも、強気予想は相次いでおり、平均目標株価も着実に切り上がっている。現在は220ドルと、24日終値の186.26ドルから18%の上昇余地を示す。
エヌビディアに対して最も強気なのはHSBCのフランク・リー氏だ。同氏は先頃、投資判断を「ホールド」から「買い」に引き上げ、目標株価を320ドルに設定した。リー氏はAIアクセラレーターの需要が既存顧客以外にも広がり、市場が大きく成長するとみている。
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だが、リー氏が見込む需要水準は、エヌビディアのAIチップが事実上すべて売り切れ状態になることを意味する。こうした見方に対し、ゴールドバーグ氏はさらなる上昇余地がどこにあるのか疑問を呈する。同氏の目標株価は100ドルと、断トツで最も低い水準だ。
とはいえ、ゴールドバーグ氏はエヌビディアとジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)のリーダーシップには強い敬意を表している。同氏によると、売り評価はエヌビディアがブロードコムやクアルコム、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(
AMD)などの競合をアンダーパフォームするとの見方を反映しており、空売りを推奨しているわけではない。
また新設のデータセンターを稼働させるために必要となる膨大な追加電力をどこから確保するのかも、いまだ明確ではないと同氏は指摘する。さらに、こうしたインフラ開発の周辺では多くのレバレッジが積み上がっているという。
「これらGPU(画像処理半導体)の行き先を追っていくと、ネオクラウド(新興クラウド事業)や、電力・不動産取引の複雑な構造にたどり着く」と同氏。「無名の企業が一つでも行き詰まれば、その影響が連鎖的にサプライチェーン全体に波及することは容易に想像できる」と言う。
売りの投資判断を巡り、「日々反論を受けるだろうと覚悟していた」と話すゴールドバーグ氏。「だが、これまでのところ誰一人として私の主張に真正面から反論した人はいない。予想は早すぎる、本当の試練はこれからだという人もいれば、むしろ遅すぎる、昨年はすでに株価が出遅れたという声もある。しかし、気が狂っているとか、こんなばかげた意見は聞いたことがないと言った人は誰もいない。AIを巡って熱狂が渦巻いているとの認識では誰もが一致しているのだと思う。エヌビディアは確かに優れた企業だが、不滅ではない」と語った。
原題:
‘This Is Not My First Bubble’: Nvidia’s Bear Stands His Ground(抜粋)
— 取材協力 Ian King






