「オーク、ココナツ、チェリーキャンディーのような風味」。ボストンの日本酒バー「コージ・クラブ」のオーナー、アリッサ・ミキコ・ディパスクワーレ氏は、マサチューセッツ州メドフィールドの田園地帯で造られた缶入り日本酒「ニーズ・オブ・メニー」をそう表現する。
ファーゼスト・スター・サケが造る別の日本酒「クラスM」は「焼き栗、シイタケ、カスタードのような味わい」で、スマッシュバーガーやスパイシーなポテトチップスと相性がいいと彼女は語る。いずれも本場の日本酒に引けを取らないという。
米国産の日本酒が脚光を浴びている。米国の農家がすし用のコメを栽培し始めた1990年代、米国での日本酒造りが緒に就いた。以来、日本食の世界的な広がりとともに、食事に合わせて楽しむアルコールとして日本酒の需要も拡大した。
日本でも人気の「獺祭」は2023年、ニューヨーク州ハイドパークに5万5000平方フィート(約5110平方メートル)の製造拠点「
獺祭ブルー」をオープン。米国の水とコメで日本酒を造っている。
ファーゼスト・スターの純米酒
Source: Farthest Star Sake 米国は昨年、数量ベースで日本酒最大の輸出市場となった。日本酒造組合中央会によると、ファインダイニング需要がけん引し、対米輸出は前年比23%増加した。日本酒の輸出額で最大の市場は中国だ。
ディパスクワーレ氏は「酒造りは他の優れたものと同様、実践と丁寧な作業が必要だ。そして今、私たちはそのおいしいごほうびを得ている」と語る。
「大いなる自由」
日本酒造りは時間と労力を要する。丁寧に精米されたコメは蒸され、こうじ菌と酵母で発酵させた後、ろ過・熟成される。
米国での参入のハードルは高く、米国の日本酒メーカーは今も少数派だ。日本には蔵元が数百あるが、米国で北米酒蔵同業組合(SBANA)に加盟しているのは19社に過ぎない。
獺祭を除けば、いずれも小規模な事業者だが、各社は独自のアプローチで伝統に挑み、熱狂的な人気を集める銘柄を生み出している。
アリゾナ・サケ
Source: Arizona Sake 日本酒に関する共著もあるナンシー・マツモト氏は「ここには地元の環境を反映させ日本酒を実験的に造る大いなる自由がある」と言う。
伝統に基づく深い専門性を生かしながらも、米国では「何でもやってみよう」の精神が、テキサス・サケのオークたる熟成酒や、アリゾナ・サケのウチワサボテンとナバホ茶風味の酒といった製品につながっている。
USAライス連合会によれば、米国産のコメは4割がアーカンソー州で作られ、米国では日本酒製造の中心地として台頭しつつある。同州で山田錦や雄町といった酒米の栽培と精米受託を手がけるイスベル・ファームズの役割は大きい。
オリガミの日本酒
Source: Origami Sake 「イスベル・ファームズにアクセスできることが、私たちが酒造りを始めた理由の一つ」と言うのは、22年に同州ホットスプリングスでオリガミ・サケを創業したマット・ベル氏だ。
理由はそれだけではない。鉄分やマンガンが少なく、雑味を抑えられる軟水にも恵まれている。オリガミのラインアップは750ミリリットル(ml)瓶で25-49ドル(約3600-7100円)だ。爽やかでメロンのような「ホワイト・ロータス」や蜂蜜風味の「エンジェルフィッシュ」に加え、ノンアルコールの「ゼロ・プルーフ」もある。
今年4月には桜祭りと同時に「第5回アメリカン・クラフト・サケ・フェスティバル」が開催され、約400人のファンがホットスプリングスに集まった。
米国でのコメ生産量2位はカリフォルニア州だ。アジア系移民も多い同州には独自の酒造エコシステム(生態系)がある。
サンフランシスコのセコイア・サケは、ワサビやハラペーニョ、ハバネロを使用した日本酒(375mlで約24ドル)を販売。オークランドのデン・サケは看板商品「ブルー・ラベル」(500mlで31ドル)、ロサンゼルスのソーテル・サケは炭酸入りユズジンジャー風味の缶入り酒(8ドル)を展開している。
快挙
ニューヨークのブルックリンクラは3月、米国の日本酒メーカーとして初めて日本への輸出を始めるいう快挙を成し遂げた。
東京では今、グレープフルーツのような香りでIPA(インディア・ペール・エール)風の辛口酒「オクシデンタル」(750mlで4500-5000円)を百貨店などで買うことができる。
この取り組みは一時的なものではない。「日本は世界最大の日本酒市場で、持続可能な販路を築くことが重要だ」とブライアン・ポーレン最高経営責任者(CEO)は話す。
ブルックリンクラの日本酒ラインアップ
Source: Brooklyn Kura 業界にとって今は転換点だ。日本国内では、高齢化に加え、若年層がワインやビール、カクテルを好み、日本酒の消費は減少傾向にある。国連教育科学文化機関(ユネスコ)が日本の伝統的な酒造りを「無形文化遺産」に指定したが、背景には酒造りの技の継承が途絶えることへの危機感がある。
ブルックリンクラから始まった日本酒「逆輸入」が、業界の活性化につながり得ると専門家は期待を寄せる。マツモト氏は「日本では、国内で人気がないものが海外で注目され、それから再評価されることがある」と指摘。「それが今、日本酒の世界で起きているのかもしれない」と話している。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:
American Sake Is Getting So Big It’s Even Exporting to Japan (抜粋)







