東京証券取引所がグロース市場の上場維持基準を引き上げようとする中、上場を急がず合併・買収(M&A)で規模拡大を目指す新興企業が増えつつある。時価総額が低い状態での「小粒上場」はコストがかさみ、十分な資金調達につながらないケースも多く、メリットが薄れている。
東京証券取引所
Source: Bloomberg 医療系スタートアップのカケハシ(東京都港区) の中川貴史最高経営責任者(CEO)は1000億円以上の時価総額での上場を狙うと話す。規模拡大の手段として視野に入れるのがM&Aだ。今春、米ゴールドマン・
サックスなどの投資家や銀行から出資と融資で約140億円調達し、M&A資金を確保した。同社によると企業価値は数百億円後半で、経済データを扱うスピーダによると、7月時点で651億円という。
未上場でも大型の資金調達ができる環境が整いつつある。中川氏は「小規模な上場ではコストが高くなるし、いい機関投資家も入ってくれない」と説明。投資家側の意識が変わり、既存株主から早期上場を求められることもなくなったという。
日本では従来、経営者や投資家が新規株式公開(IPO)を重視してきたため小粒上場が多く、それがスタートアップの淘汰(とうた)や成長を阻んできたとの指摘がある。積極的に規制改革などに取り組む自民党の小林史明衆院議員は、「グロース市場にIPOすることだけがゴールになっている可能性がある」とし、M&A市場活性化の重要性を強調する。
こうした状況を踏まえ、東証はグロース市場の改革に着手。2030年には上場維持基準を「10年経過後に時価総額40億円以上」から「5年経過後に100億円以上」へ引き上げる。要件を満たせなければ改善期間を経て上場廃止か市場替えを迫られる。
二極化
2025年10月17日時点でグロース市場には608社が上場する。ブルームバーグのデータによると、時価総額100億円未満の企業は380社超あり、その時価総額の合計は1兆8000億円弱となる。
東証が、グロース市場にメスを入れることでIPOのハードルは上がる。未上場でもカケハシのように資金調達して買収で規模を広げようとする企業と、売却によるエグジット(投資回収)を選ぶ企業で二極化が進みそうだ。再編でより規模が大きく、競争力のあるスタートアップが生まれる可能性もある。
三菱UFJイノベーション・パートナーズ最高投資責任者の佐野尚志氏は、確実に良い方向に変化していると話す。企業の成長や事業拡大につながると見ている。
変化はすでに起きている。新興企業支援の
フォースタートアップスの調査によれば、24年のスタートアップのエグジットにおける企業売却は199件と、20年と比べて2倍超になった。25年1-6月も92件と堅調に推移する一方、同期間のIPOは21件にとどまる。M&Aではスタートアップが買い手になるケースも増えてきた。
かつては「買収されること=失敗」との意識から拒否感も強かったが、今は変わりつつある。M&Aによって別会社に事業を引き継いでもらい、自らは次のチャレンジができるとポジティブに捉える経営者も増えているようだと、カケハシの中川氏は説明する。
国内スタートアップへの投資額はここ10年で約10倍に増え、新興企業の母集団は増えた。一方で次世代を担う企業が生まれたとは言いづらい。東証のグロース市場改革を機に競争力のあるスタートアップが生まれるかどうかは、起業家のM&A戦略の巧拙にもかかっている。
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