トランプ米大統領の再登板から一定の時間が経過した。国民の間ではトランプ氏が約束した「経済の黄金期」の兆しを期待する声も上がったが、現実には米経済の先行きに警戒信号がともり始めている。
景気不安の兆しは、有権者の声にも、記録的な長さとなっている政府閉鎖の影響で途切れがちな経済データにも表れている。景気は拡大を続けているものの、人工知能(AI)ブームや株高による資産効果への依存が強まり、成長の偏りが際立っている。
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先に行われたニューヨーク市長選、バージニア州知事選、ニュージャージー州知事選では、生活費高騰への不安を背景に民主党がトランプ氏率いる
共和党を圧倒した。ブルームバーグ・ニュースの委託でハリス世論調査が10月に実施した調査では、「経済は自分たちの暮らしに恩恵をもたらしていない」との回答が半数に上り、2月時点の41%から上昇した。一方で「1年前より家計が改善した」との回答は3分の1にとどまった。
もっとも、専門家の間では地方選の結果を過大評価すべきではないとの見方もある。トランプ政権の政策の多くはまだ完全には効果を発揮していない。減税策は企業投資を押し上げるとみられており、データセンター建設をめぐる投資はすでに活発化している。ただ、貿易摩擦が逆風となり、多くの企業で設備投資を凍結する動きもみられる。
雇用環境が冷え込み始めるなか、各種の消費者調査や世論調査では、国民が景気やトランプ氏の経済運営に悲観的な見方を強めていることが示されている。
EYパルテノンのチーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は「米経済は表面上は底堅いが、実際には、富裕層の消費、AI主導の投資、資産価格の上昇という三つの柱に過度に依存している」と指摘。「いずれかが揺らげば、経済全体の安定性は大きく損なわれるだろう」と述べた。
成果はこれから
トランプ大統領とホワイトハウスの経済チームは、改革の成果がすぐに表れるものではないと認めつつ、効果が現れる時期の見通しを示していた。ラトニック商務長官は3月、「第4四半期には『トランプの経済』の力を実感するだろう」と語っていた。
その見通しは最近、ベッセント財務長官によって修正された。同氏は先週、FOXビジネスで「2026年は米国経済が大きく飛躍する年となり、国民はその効果を実感するだろう」と語った。
たが、景気は再び減速局面を迎える可能性がある。企業や消費者が関税発動前に輸入を急増させた影響で、1-3月(第1四半期)は国内総生産(GDP)がマイナス成長となったが、その後は一時的に持ち直していた。
米大統領経済諮問委員会(CEA)のピエール・ヤレド氏によると、ホワイトハウスは「バイデン経済からトランプ経済への移行が緩やかに進んでいる」との見方を示している。
同氏は電話取材に対し、「大統領の政策は着実に実を結びつつある」と述べ、経済全体の成長、賃金水準の高い雇用の創出、国内での強固なサプライチェーン構築の三つを主な成果として挙げた。また、欧州連合(EU)など他の国・地域と比べた米経済の優位性にも言及した。
政府閉鎖の影響で、9月分の雇用統計など主要な経済指標の公表が遅れている。民間の代替データによれば、雇用の伸びは鈍化し、失業率は低水準ながら上昇傾向にある。アマゾン・ドット・コムやターゲットなどの大手企業が人員削減に踏み切っており、米企業による10月の人員削減数は過去約20年で最多となった。
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とりわけ苦戦しているのが、トランプ氏が「関税主導の復活」を掲げた製造業だ。世界規模の関税措置が打ち出された後、製造業の活動は
8カ月連続で縮小し、4月以降の雇用減は4万2000人に達した。
ヤレド氏は「重要なのは雇用の質だ」と述べ、製造業の生産性が今年に入り改善していることや、工場や鉱業、建設といった政権の重点分野で実質賃金が上昇している点を挙げた。
ただ製造業や建設業、農業、サービス業などでは、トランプ政権による移民取り締まりの強化を背景に労働力の供給が細っている。
各種調査によると、米国民の間では雇用環境や経済全体への不安が広がっている。トランプ氏の経済運営に対する支持率はリアル・クリア・ポリティクスの平均値で急低下している。米ミシガン大学が発表した11月の消費者マインド指数は、
約3年ぶりの水準に低下した。政府機関の閉鎖が景気見通しを暗くしたほか、物価高で家計見通しも悪化した。
関税による混乱
通商政策はトランプ政権2期目の重要課題の一つとなっている。トランプ氏は製造業の再生や貿易赤字の解消、歳入拡大などを目的に、選挙公約どおり輸入関税の引き上げを進めている。
歳入拡大という点では、すでに成果が出ている。米国の関税率はおよそ1世紀ぶりの高水準となり、財務省は月間約300億ドルを徴収している。
ただ、関税発動をめぐるトランプ氏の場当たり的な対応が、先行きの不透明感を強めている。関税率の行方を見極めようと、多くの企業が投資や採用の判断を保留している。
根強いインフレ
インフレ率は約3%と、トランプ氏が大統領に就任した1月時点とほぼ同水準にある。企業の1年先の物価見通しは横ばいで推移しており、消費者の間でも、最悪期に比べて物価への懸念は和らいでいる。
それでも、生活費高騰への不満が民主党への追い風となり、同党はバージニア州とニュージャージー州の知事選で大差をつけて勝利した。両州で、そして来年の中間選挙でも全国的な争点となる可能性があるのが、電気料金の上昇だ。
トランプ氏とベッセント氏は、エネルギー価格の引き下げを経済政策の中心に据えている。今年のガソリン価格の下落を成果として挙げ、規制緩和によってさらに低下が見込めると主張する。ただ、政権が推進するAI分野の拡大は、データセンターの電力需要を押し上げ、電気料金の上昇要因となる可能性がある。
AIが主導する株高
AIブームが明確に成長エンジンとなっているのが米国市場だ。S&P500種株価指数の時価総額は今年、トランプ関税による春先の調整を乗り越え、約8兆ドル増加した。その上昇を主導しているのは「マグニフィセント・セブン」と呼ばれるハイテク大手7社。 AIブームの中心にある半導体大手エヌビディアは最近、世界初の
時価総額5兆ドル企業となった。
株高による資産効果が個人消費を押し上げている。ただ、富裕層の支出が個人消費全体に占める割合が拡大を続けている。ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏の分析によると、
所得分布上位10%の消費者による支出は4-6月(第2四半期)に消費全体の49.2%を占めた。
こうした状況を受け、一部のエコノミストの間では、格差の拡大を示す「K字型経済」という現象が注目され始めている。
「Kの上側にいる人々にとっては、景気は申し分ない。しかし下側にいる人々にとっては生活に不安が増し、リスクが高まっている」と、RSM・USのチーフエコノミスト、ジョー・ブルスエラス氏は指摘。「その層の人々にとって、経済はますます不安定になりつつある」と語った。
原題:
It’s Trump’s Economy Now and Americans Don’t Seem to Love It(抜粋)
— 取材協力 Vince Golle, Gregory Korte and Alexander McIntyre





