パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長にとって、7日の仕事の半分は問題なく進みそうなのに対し、残りの半分はあまりそうでないかもしれない。
米金融当局は7日まで2日間の日程で開く連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、0.25ポイントの追加利下げを決めると広く予想されている。これがスムーズに進みそうな部分だ。
ワシントンのFRB本部
Photographer: Stefani Reynolds/Bloomberg しかし、議長はその後の記者会見で、ドナルド・トランプ氏のホワイトハウス返り咲きが経済成長やインフレ、金利にどのような意味を持つかについて、記者団の質問に答える必要に直面するだろう。
トランプ氏の衝撃的な大統領選圧勝を受け、世界中の金融市場では既にすさまじい勢いで価格再設定の動きが広がっている。
トランプ氏の返り咲きに加え、議会では共和党が上院で多数派になり、下院でも過半数議席を維持する可能性があり、金融政策の道筋を巡る見通しに影響を及ぼしている。
パウエル議長はこうした状況にあって、当局としてトランプ政権2期目の影響に対処することができると、世界の投資家を安心させる必要があると考えられる。
トランプ次期大統領は外国からの輸入品への一律の追加関税賦課や、法人税率引き下げおよび残業代などへの課税撤廃を公約している。いずれもインフレ高進につながるとみられている施策だ。
トランプ氏はさらに、FRBの首脳交代の可能性を考えたり、金利について自分に多少の発言権があると主張したりしている。
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選挙結果が共和党に傾いたことで、投資家は経済成長とインフレの加速という「トランプトレード」に賭ける動きを強めた。米長期債利回りは20ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)近く急上昇し、米国株は最高値を更新、ドルは上昇した。
The Trump Trade In Action
Post-election day sees sharp swings on stock, bond and currency markets
Source: Bloomberg
トランプ氏の一連の政策方針を念頭に、ウォール街の複数のエコノミストは、選挙前よりも少なめの利下げを見込んでいる。JPモルガン・チェースは、今週と来月に0.25ポイントずつの金融緩和を引き続き予測しているが、それ以降は1会合置きの利下げにペースを落とすと予想する。
「ペースダウン」
JPモルガンの米国担当チーフエコノミスト、マイケル・フェローリ氏はインタビューで、「7日には何の意味もないし、12月にもほとんど意味はないだろう」とした上で、「12月以降はもっと面白くなる」と語った。
米金融当局はトランプ氏の掲げるどの政策がどのような順序で実施されるかを知ることができず、それだけでも当局はもっと慎重になる可能性があるとフェローリ氏は指摘。「不確実性が高まれば、少しゆっくり進めたいと考えるかもしれない」と話した。
米経済は選挙前、ソフトランディング(軟着陸)達成の軌道にあった。労働市場に弱さの兆候が見られたとはいえ、失業率が急上昇することなく、インフレ率は2%の当局目標に向かって低下していた。しかし現在、新たなリスクが発生している。
米国への輸入品価格を押し上げる関税と個人消費需要を刺激する減税は、いずれもインフレを引き起こすと、大半のエコノミストがみている。既に上院を制した共和党が下院過半数も維持すれば、減税を実現するトランプ氏の能力はさらに高まるだろう。同氏はまた、不法移民の大規模強制送還を約束している。
野村ホールディングスは最近のリポートで、トランプ政権発足の場合、2025年のインフレ率は0.75ポイント押し上げられると予想していた。今では、来年の米利下げ回数は1回だけになると見込む。選挙前は4回だった。
デービッド・セイフ氏らエコノミストは6日のリポートで、「トランプ氏は選挙戦中に提示した関税引き上げを実行に移し、短期的にはインフレ率を大幅に押し上げ、成長率は小幅に低下すると予想する」との分析を示した。
Trade War Escalation Would Cut US Growth, Raise Prices
Estimated 2028 impact of Trump's tariff plans (relative to baseline)
Source: Bloomberg Economics
二十数年ぶりの高水準に金利を引き上げた金融当局が9月に利下げ開始を決めた背景には、インフレ鈍化の傾向がある。だが、多くの有権者にとっては、物価上昇の影響が極めて大きいことが示された。NBCニュースが主要州で行った出口調査によれば、有権者の約22%が過去1年間にインフレが「深刻な苦難」を引き起こしたとし、53%は「中程度の苦難」をもたらしたと回答した。
新型コロナウイルス禍後のインフレの経験から、金融当局者は物価上昇と、インフレ期待が不安定化するリスクに敏感になっている。再加速の兆しがあれば、当局は利下げペースを落とすか、利下げを完全に断念することを意味し、金利は以前の予想ほど下がらないことになる。
これらのことは、FOMC会合の予測が一段と難しくなることを意味する。エコノミストや投資家は、9月に0.5ポイント利下げした当局が、7日に0.25ポイントの追加利下げを決め、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを4.5-4.75%にするとみている。予想を上回る強い経済データが労働市場の悪化懸念を和らげ、0.25ポイントの引き下げを一層受け入れやすくしている。
FOMCは米東部時間7日午後2時(日本時間8日午前4時)に決定内容を発表し、2時半からパウエル議長が記者会見する。パウエル議長は、できる限り政治色を排除するよう努めるだろう。ただ、今回の選挙結果や、トランプ氏の政策が経済とインフレの見通しを変える可能性があることを踏まえると、投資家は金融当局が今後の道筋をどう切り開くつもりなのか手掛かりを得るため、大いに注目するだろう。
「非政治的」
世界中の大多数の中央銀行がそうであるように、米金融当局は党派政治にとらわれない運営を目指している。パウエル議長は、金融当局の仕事は経済に反応・対応することであり、まだ実施されていない政策計画に基づいて先手を打つことではないと繰り返し述べてきた。「われわれは非政治的機関だ。政治には一切関わりたくないのだ」と議長は今年早い時期に語った。
しかし、来年1月20日にトランプ氏がホワイトハウスに戻ることで、米金融当局が切り開かねばならない経済環境が、再編成される可能性があることは間違いない。
税制では、トランプ氏は1期目に可決され、来年末に期限切れとなる減税措置の延長と、法人税のさらなる減税を約束している。
通商政策では全ての輸入品に10-20%の関税を賦課し、中国からの輸入品には60%以上の関税を課すことを掲げてきた。
移民問題を巡っては、トランプ氏は史上最大規模の不法移民の強制送還を約束している。また、エネルギー政策は「掘削しまくれ」をモットーに、石油や天然ガス、石炭の生産に対する規制を削減し、化石燃料の生産に利用できる連邦所有地を増やすとしている。
トランプ大統領の政策綱領はインフレの影響だけでなく、米財政赤字の拡大とドル高をもたらす可能性が高いとエコノミストは指摘する。財政赤字は連邦債務残高を国内総生産(GDP)比100%に向けて押し上げる要因となっている。
How Trump Tax Proposals Would Affect National Debt
Projected debt as share of GDP
Source: Congressional Budget Office, Bloomberg Economics
Note: Projections exclude impact of proposed tariffs on revenue or growth
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)は、トランプ氏が提案する所得税減税の延長と法人税率引き下げによって、28年には連邦債務残高がGDP比116%に達すると推計している。
このほか、移民問題へのトランプ氏の計画について見ると、労働者の減少は個人消費の減少だけでなく、労働力が減ることも意味し、建設業やヘルスケアなど一部産業で労働者不足が生じる。
そして、米金融当局には独立した政策決定機関としての自らの立場もある。トランプ氏は1期目の在任中、当局が17年と18年に利上げした際、パウエル議長に利下げを促し、ホワイトハウスが金融政策の詳細についてコメントするのを避けるという慣例を破った。
トランプ氏の在任中の金融当局文書によると、スタッフや当局者は、関税引き上げや減税を含むさまざまなシナリオが経済にどのような影響を与えるか予測を立て、最終的には政策が実際に実施された場合にのみ行動していた。
政策進展
トランプ政権2期目の影響への対処を迫られる中銀は、パウエル氏とその同僚だけではない。 ドルは貿易と金融で支配的な役割を担っているため、ワシントンでの金融政策の決定は為替レートに影響を与え、しばしば他国に対応するよう圧力をかける。
欧州中央銀行(ECB)のデギンドス副総裁は、トランプ氏が関税引き上げの約束を実行すれば、世界は成長とインフレへのショックに直面すると述べた。さらに、米国のインフレと金利の上昇は、特に新興市場からの資金引き揚げにつながる傾向がある。
米金融当局は今のところ、雇用と物価にフォーカスし続けることができる。また、トランプ新政権が発足しても、ホワイトハウスが新しい政策を策定したり、議会で採決されたりするまでには時間がかかる可能性がある。
FOMC会合後のパウエル議長記者会見を伝えるテレビ中継(7月)
Photographer: Michael Nagle/Bloomberg KPMGのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏は「政策は25年に向けて米金融当局に影響を与えるだろうが、当局が対応できるのは政策が実行された後だ」と指摘。「選挙の結果どうなるかは、政策がどのように進展し、それが経済にどのような影響を与えるかに左右される」と語った。
FOMCは今月の会合で経済・金利見通しを更新することはなく、12月に新たな四半期経済予測が発表される。パウエル議長は恐らく、今年最後の会合に向けて、経済が再び過熱しそうな場合には金利を据え置くことも含め、あらゆる選択肢が検討対象となることを示唆するだろう。
パウエル議長は既に、新たに入手するデータに強く誘導されるアプローチを強調している。世界最大の経済大国がトランプ氏の下で軌道修正されようとしている今、議長ら当局者はこうした姿勢をさらに強めるかもしれない。
ドイツ銀行のチーフエコノミスト、マシュー・ルゼッティ氏は「この時期は、政策がどこに向かうかについて意味のあるフォワードガイダンスを提示したい時期ではない」と解説。「データの背後には不確実性がある。しかしそれは、今後どのような経済政策がとられるのかという不確実性によって増幅されている」とコメントした。
原題:
Powell Is Back in Trump’s World and About to Feel the Heat(抜粋)






