今年の最重要イベントとも言える米大統領選の投票日が間近に迫っている。
金利や労働市場、欧州や中東での紛争を巡る不透明感が広がり、投資家はすでに試練にさらされているが、民主党候補のハリス副大統領と共和党から出馬しているトランプ前大統領の接戦がさらなる不安定要因となっている。
世論調査で両候補の差はほとんどないが、今のところ株式投資家は不安を抱いていない。
S&P500種株価指数は2024年に入り徐々に上昇し、今年だけで
最高値を47回も更新している。また、歴史的に見ても、選挙後には株価が一段高となる傾向がある。
事前投票の初日、有権者が投票するため列を成している(ノースカロライナ州ウィルミントン、10月17日)
Photographer: Allison Joyce/Bloomberg 事実上コイントスで決まるような選挙では、トレーダーがこれから起こることを見越して取引することは難しい。それが、トランプ氏が有利と予想している「ポリマーケット」や「プレディクトイット」などの賭けサイトにこれほどまでに注目が集まっている
理由かもしれない。
政党別の勝利を予想した取引戦略を追跡するゴールドマン・サックス・グループの指数では、共和党支持のバスケットが9月下旬から上昇し始めているのに対し、民主党支持のバスケットは低下している。
Fierce Competition
Source: Source: Goldman Sachs
選挙年のデータ
選挙の年は一般的に米株式市場にとって良い年となっている。S&P500種は、1960年以降のほぼ全ての選挙年に上昇。例外は2000年と08年で、それぞれドットコムバブル崩壊と大規模な金融危機に見舞われた。
最近では、株式市場はさらに好ましい結果を残している。12年と16年、20年は、S&P500種が少なくとも10%上昇した。
債券やドル相場への影響については、選挙年の明確なパターンは見られない。例えば、ドルの価値を主要通貨に対して測るDXYとして知られる米ドル指数は、過去6回の選挙年で3回上昇し、3回下落した。
ハリス氏(ペンシルベニア州ワシントンクロッシングでの選挙イベント、10月16日)
Photographer: Hannah Beier/Bloomberg接戦リスク
投開票日から数日を経ても、結果が確定しない公算も大きい。専門家は、選挙結果が際どい差となる可能性を
指摘しており、そうなれば、あらゆる資産クラスでボラティリティーが高まり、株式市場の熱狂的な上昇も頓挫し得る。
2000年大統領選でフロリダ州の再集計を巡る論争が続く中で、S&P500種は4%余り下落し、米国債10年物利回りは52ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下。投資家が安全資産に殺到したため金価格が上昇した。
選挙結果が長期にわたる論争、さらに悪いことには政治的暴力に発展する可能性があることも、投資家の懸念材料だ。 そうした事態に至った場合、特に最終結果が不透明である場合には、株価の下落が予想される。
恐怖指数
シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)は、ウォール街の「恐怖指数」とも呼ばれ、歴史的に選挙日近くまでは上昇し、それから低下する傾向にある。
バークレイズのストラテジストによると、投票翌日(11月6日)のS&P500の変動をいずれかの方向に1.8%とトレーダーが見込んでいることをオプションのポジショニングデータは示唆している。
株式と同様に、債券も通常、選挙前にはボラティリティーの高まりを織り込み、その後に落ち着きを取り戻す。
債券市場版VIXと言われるMOVE指数は、1988年以降の選挙年では10月に平均4ポイント上昇し、11月に7ポイント低下した。
シンプリファイ・アセット・マネジメントのマネジングパートナー、ハーレー・バスマン氏によれば、オプション市場は選挙直後に米国債の利回りが18bp程度変動すると投資家が想定していることを示唆している。
ウィスコンシン州ミルウォーキーで開催された共和党全国大会でのトランプ氏支持者(7月17日)
Source: Bloomberg
投資家が考えるべき問題
税金:
トランプ氏は法人税率を現行の21%から15%に引き下げると
公約。共和党が進めた17年の包括的な税制改革法を恒久化し、その法案の主要部分の更新を促すと約束している。
一方、ハリス氏は法人税率を28%に引き上げると
提案。同氏は、年収40万ドル(約6000万円)未満の納税者については現行税率を維持し、それ以上の高所得者層に課す税率の引き上げを求めている。
貿易と関税:
トランプ氏は、一律10%から20%程度の関税、そして中国製品にはさらに高い税率を課すとアピール。民主党のバイデン大統領が今年、中国からの輸入品に対する大幅な関税引き上げを
発表したにもかかわらず、ハリス氏の選挙キャンペーンのメッセージからは、中国に対しては妥協しないものの、二大経済大国間の関係がさらに悪化することにメリットはないという考えがうかがえる。
ゴールドマンのエコノミストは、トランプ氏が当選した場合、同氏が関税引き上げを実施する可能性が高いと指摘し、その結果、
インフレが加速すると見込んでいる。
移民:
トランプ氏は不法移民の国外追放を主張。ハリス氏は、米国の南部国境沿いに新たな障壁を建設することを含む移民に関する取り決めへの支持を示している。
バイデン政権はメキシコから米国に向かう一部の移民の亡命申請を
却下。JPモルガン・チェースのストラテジストは、労働力不足が深刻化すれば、移民制限がインフレの潜在的要因になり得るとみている。
ハリス氏勝利で注目すべき資産
株式:
ハリス氏の勝利は、再生可能エネルギー生産や電気自動車(EV)、公益事業など、幅広い企業に恩恵をもたらすと見込まれている。
しかし、同氏勝利のより大きな利点は、中国との貿易戦争が回避可能という点だ。トランプ氏が勝てば、関税に関するより過激な発言が米中関係を脅かすとみられる。
民主党がクリーンエネルギーに対し積極的な姿勢を示していることから、ハリス政権となれば、EVメーカー(テスラやリビアン・オートモーティブ、
ルーシッド・グループ)やEV充電ネットワーク運営会社(チャージポイント・ホールディングスやビーム・グローバル、
ブリンク・チャージング)、バッテリーメーカーなどの業界にとって朗報となりそうだ。
ファースト・ソーラーや
サンラン、
エンフェーズ・エナジーなどソーラー発電関連企業の株価も、ハリス氏勝利なら上昇する見通し。
住宅建設会社も恩恵を受ける可能性がある。ハリス氏は、初めて住宅を購入する人に住宅ローンの頭金として最大2万5000ドルの支援を提案しており、スターターホーム(初めて購入する人向けの住宅)を扱う建設会社への税制優遇措置も提案している。
DRホートンや
レナー、KBホームなどの銘柄が注目される。
また、民主党政権下では大麻関連株も全般的に好調だ。
ティルレイ・ブランズや
キャノピー・グロース、
キュラリーフ・ホールディングス、さらに上場投資信託(ETF)の
アドバイザーシェアーズ・ピュアUSカンナビスETFなどに注目したい。
ハリス政権は規制を厳格に維持すると見込まれ、バンク・オブ・アメリカ(BofA)やJPモルガン、ゴールドマンなどの銀行に対する自己資本比率規制の強化や、クレジットカード手数料収入への圧力が継続することが予想される。このため、金融セクターは振るわない可能性がある。
製薬会社も規制圧力に直面し得る。ハリス氏は処方薬の自己負担額に年2000ドルの上限を設けることを提案している。
債券:
ハリス、トランプ両氏とも米国の債務削減に意欲的ではない。これは長期的には長期債に圧力をかけることになるが、ブルームバーグ端末ユーザーを対象とした9月の
調査によると、両候補の間ではハリス氏が債券市場に対してより好意的と見なされている。
為替:
ウェルズ・ファーゴのストラテジスト、アループ・チャタジー氏によると、ハリス氏が大統領に就任した場合、通商や移民問題から外交政策に至るまで、政策決定の不確実性が低下し、伝統的な安全資産であるドルが値下がりする可能性がある。
コンベラのアナリストは、民主党がホワイトハウスと連邦議会をいずれも制すれば、増税による財源で社会支出が増えることになり、これもドル安につながるシナリオとなる。
ハリス氏のポスター(シカゴ)
Photographer: Al Drago/Bloomberg
トランプ氏勝利で注目すべき資産
株式:
中国に対する収入エクスポージャーが高い企業は貿易摩擦がエスカレートした場合、混乱に直面する恐れがある。
エヌビディアやブロードコム、
クアルコムなどの半導体メーカーに加え、
エアープロダクツ・アンド・ケミカルズや
セラニーズなどの素材企業や
オーチス・ワールドワイドなどの工業企業がそうした代表格だ。
石油生産に対する規制撤廃を公約に掲げるトランプ氏の勝利から恩恵を受ける可能性が高いとみられているのは、石油・天然ガスといった従来型のエネルギー関連企業だ。
注目すべき銘柄には、ベーカー・ヒューズや
エクソンモービル、
コノコフィリップス、
オキシデンタル・ペトロリアム、
ウィリアムズ、ハリバートン、デボン・エナジー、シェブロンなどがある。
バイデン政権のインフレ抑制法(IRA)の恩恵にあずかってきたクリーンエネルギー・EV関連企業は、トランプ氏が大統領に返り咲いた場合、困難に直面すると予想されている。同氏がバイデン政権のEV政策を完全に覆す意向を示しているためだ。
トランプ氏がEV購入者への税額控除を廃止した場合、リスクにさらされる企業には、テスラやリビアン、ルーシッドのほか、バッテリーメーカーや部品サプライヤーが含まれる。
トランプ氏(ペンシルベニア州バトラー、10月5日)
Source: Justin Merriman/Bloomberg 共和党政権となれば、国防支出が明確な優先事項となることが予想されるため、防衛関連株の好調が見込まれる。注目すべき銘柄には、
ロッキード・マーチンやノースロップ・グラマン、RTXなどがある。
移民政策の厳格化は刑務所運営会社に恩恵が及ぶため、GEOグループや
コアシビックのような刑務所関連銘柄も値上がりするかもしれない。また、銃器メーカーの
スミス&ウェッソン・ブランズや
スターム・ルガーなどの銘柄も、共和党が勝利すると上昇する傾向がある。
暗号資産(仮想通貨)関連の株式は、最近では
「トランプトレード」の指標と見なされている。トランプ氏は大統領時代のスタンスを一変。ビットコインなどのデジタル資産に好意的な姿勢を示し、米国を「暗号通貨の首都」にすると誓うほどの急転換ぶりだ。
コインベース・グローバルやマラソン・デジタル・ホールディングス、
ライオット・プラットフォームズ、
クリーンスパーク、
マイクロストラテジー、
サイファー・マイニング、
ビットワイズ・クリプト・インダストリー・イノベーターズETFなどが注目だ。
トランプ氏と副大統領候補のバンス上院議員が勝利した場合、メディア企業2社の株価が上昇する可能性がある。
その2社とは、トランプ氏のソーシャルプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」の親会社
トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループと、バンス氏のベンチャーキャピタル企業ナリヤが5月時点で株式を保有していた動画共有プラットフォームの
ランブルだ。
債券:
6月下旬に行われた大統領候補討論会でのバイデン氏の劣勢により、トランプ氏にホワイトハウス奪還への道が開けたように見えた後、債券市場で人気を得たのが長期債が短期債に対しアンダーパフォームとなるイールドカーブのスティープ化を見越した取引だ。
以後、債券投資家が「トランプトレード」と呼ぶこの取引の魅力は薄まっていない。米連邦準備制度の利下げで、さらに弾みがつく可能性がある。連邦公開市場委員会(FOMC)は9月、50bpの利下げに踏み切った。
為替:
ウォール街では、トランプ氏の関税は少なくとも短期的にはドルを支え、中国人民元やメキシコ・ペソなどの通貨に打撃を与えるというのがストラテジストのコンセンサスとなっている。
ただ、同氏はドルが強過ぎるという主張も展開しており、相反する考えをどのように調整するのか、今後の動向が注視される。
原題:
What the Harris-Trump Election Means for Markets: QuickTake(抜粋)







