TikTok(ティックトック)やユーチューブ、レディットなどのプラットフォーム上で、金融インフルエンサーたちが株式市場の新たな投機手法を盛んに持ち上げ、100%を超える配当も可能だとはやし立てている。
それは、業界でデリバティブ・エンハンスト型上場投資信託(ETF)として知られる商品だ。注目銘柄の日次リターンを大幅に増幅させるものなど、大胆な取引に群がる個人投資家たちの人気を博している。
何万人ものアマチュア投資家がネット上のフォーラムに集まり、エヌビディアやテスラ、その他の大手テクノロジー企業を対象としたオプション取引など、急成長中の商品群のメリットについて議論している。
トレーダーらは今年、この種のETF戦略に500億ドル(約7兆4000億円)以上を投資しており、その額は増え続けている。毎週のように新たなETFが立ち上げられている。10兆ドル規模の業界で資金流入と手数料を巡る競争が激化する中、新興企業も大手企業も同様に恩恵を受けている。
「ラダー型バッファー」や「カバードコール」といったウォール街の難解な名称を持つこれら商品の多くは、相場下落から投資家を守り、同時に利益をもたらすことを約束している。しかし、最も洗練された投資家でさえも不意を突かれかねない複雑な仕組みが詰め込まれている可能性がある。
発行者は、かつては金融エリートだけの特権だった賢い投資スタイルへの絶え間ない需要に応えているのだと主張する。しかし、市場の専門家や規制当局は、購入者が購入するものを本当に理解しているのかと疑問を投げかける。
ユーチューブのチュートリアルでは、デイトレーダーのポートフォリオにとっては死活問題になりかねないボラティリティードラッグや純資産価値の低下といった技術的なリスクについては、ほとんど説明されていない。
「業界が最も重視すべきことは、顧客がこれらの戦略で何を期待できるか理解していると確認することだ。それを考えると、私は夜眠れなくなる」と、デリバティブを駆使したファンド拡大のきっかけとなった360億ドル規模の人気ファンド、JPモルガン・エクイティー・プレミアム・インカムETF(JEPI)を運用するハミルトン・ライナー氏は語る。JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャーの同氏は、30%以上の利回りを支払うことはほぼ確実に、ETFの純資産価値を圧迫することになると指摘する。
「ただ飯はない」とライナー氏は言う。「『レバレッジを使わせてくれれば、あれもこれももっとできる』と言う運用者は常にいる。彼らはプラス面についてばかり語るが、マイナス面も増えるのに、誰もそれについては語らない」と同氏は話した。
しかし、それは問題にならないようだ。 かつてないほどに米国市場を席巻した「ミーム株」の熱狂から3年が経ち、個人投資家たちは全力で投資に走り出している。
Illustration: Angela Kirkwood この分野の成長の種は、2022年の弱気相場の時代にまかれた。比較的保守的な8%前後の利回りを誇るライナー氏のJEPIは、オプションのオーバーレイ(積み重ね)によりS&P500種株価指数の20%近い下落を和らげた同ファンドに投資家が避難した結果、資産が170億ドルと3倍以上に膨らんだ。
これを受けてETF会社の間でゴールドラッシュが起こり、JEPIに類似する指数を使ったファンドや個別銘柄のリターンをオプションで膨らませる商品など、さまざまなリターンとレバレッジを目的とした商品が発売された。
その成長は驚異的だ。ブルームバーグのデータによると、今年に入って米国では過去最多の164件のデリバティブ商品の発売が見られたほか、一度に25件もの商品が申請されたこともあり、資産は過去5年で6倍の3000億ドルに増えた。
ブームをあおっているのは、オプションを売って現金収入を得、それを配当金として株主に還元するファンドだ。 通常は、ディフェンシブな特徴を売りにしているものだが、オンライン上の愛好家たちを魅了しているのは、100%以上と喧伝(けんでん)されるその利回りだ。
「配当金に9時から5時までの仕事の代わりをさせる。それがモットーだ」と、38歳のトッド・アキン氏は語る。同氏の成長中のユーチューブチャンネルでは、利益率の高いETFの分散ポートフォリオによって配当金で生活費を稼ぐ方法をフォロワーに教えることを約束している。
トッド・アキン氏
Photographer: Arturo Olmos/Bloomberg しかし、配当金が高くても、ETFのパフォーマンスが市場や関連銘柄に後れを取ることはよくある。例えば、イールドマックス・コイン・オプション・インカム・ストラテジーETF(CONY)は、過去1年間に現在の価値の100%以上を現金として保有者に還元したが、ETFの価格が急落したため、今年これまでのトータルリターンベースではマイナスとなり、追跡対象であるコインベース・グローバル株にも後れを取っている。
熱狂は一向に収まる気配がないため、規制当局は不安を募らせている。
米証券取引委員会(SEC)の投資家支援室ディレクター、クリスティナ・マーティン・ファービダ氏はインタビューで「商品の複雑化が進み、ほぼ無限ともいえる金融商品のメニューへのアクセスが拡大するのに伴い、自身の決定に基づいて投資を行う投資家の数が急増した」と説明。「こうした傾向が重なり合うことで、従来の開示の有効性や、投資家保護における開示の重要性について、差し迫った疑問が生じている」と述べた。
それでも、これらの商品は目立たない文字でリスクが説明されており、目論見書には特に相場上昇時に市場に後れを取る可能性があることが明記されている。
現金を受け取る代わりに上昇による利益の一部を犠牲にしていることが説明されているが、多くの投資家は毎月の配当を得るための交換条件を受け入れている。こうした投資家にとっては、オプション市場での賭けから現金を手に入れられる限り、関連する株式のパフォーマンスは最大の考慮事項ではない。
Derivatives-Based ETFs Are Booming in Popularity
The US-listed ETFs have seen their assets grow sixfold in the past five years
Source: Bloomberg
Note: Data as of end of September 2024
しかし、DIY(do-it-yourself)投資フォーラムの世界では、人気の高い投資商品の不確かな詳細やパフォーマンスに関する課題は、オンライン上の熱狂のために軽視される恐れがある。
米金融取引業規制機構(FINRA)が最近、報酬を得ている金融インフルエンサーによるソーシャルメディアでの活動を調査したところ、そのレビューにおける投稿の70%が同機構の規制に準拠していないことが分かった。
デリバティブ・エンハンスト型ETFに限定せず、幅広い戦略を対象として行った調査で、半数以上の投稿が有償広告であることを開示しておらず、38%は証拠金取引、証券貸し付け、オプション取引に関連するリスクの詳細を開示していなかった。
デリバティブを利用して原資産である株価指数やエヌビディアなど個別銘柄の1日の上下動を数倍に増幅させる商品もある。デリバティブ商品はデイトレーダーに人気があり、デリバティブを控えめに利用すればギャンブル的な要素を適度に満たす合理的な手段になると多くのアナリストは見なしている。
しかし、デリバティブはわずかな時間で大きな損失を生み出す可能性もある。また、継続的なコストが組み込まれているため、長く投資すると損失を生むこともある。
「恐怖と強欲をあおるようなマーケティングや、『3倍になるのにそれをしないのは愚かだ』といった損得感情に訴える内容が数多く見られる」と、ETF業界のベテラン、デーブ・ナディグ氏は指摘。「商品の増殖問題は巨大で、ほとんどが投資家の不利益につながる。私には、無秩序な状態のように感じられる」と語った。
デーブ・ナディグ氏
Photographer: Eva Marie Uzcategui/Bloomberg 雪だるま式に増え続けるファンド発行は、19年のSEC承認プロセスの合理化にまでさかのぼることができる。ETFルールと呼ばれるこの改革により、新しいファンドの立ち上げに関する制約が緩和され、発行者はパッケージ化できる有価証券についてより大きな裁量権を持つようになった。
20年の2つ目の改革であるデリバティブルールにより、SECは一部のレバレッジ型ETFを「複雑」とは見なさなくなり、一定の保護措置が講じられている限り、合理化された承認プロセスが適用されることになった。
自由市場の推進派は、この変化は金融へのアクセスを民主化し、一般投資家が数多くの人気戦略を活用できるようにする、長らく待ち望まれていた一歩だったと言う。自由化の精神は、今年多数のファンド立ち上げを支援したタイダル・ファイナンシャル・グループのような企業を活性化させた。
タイダルの最高収入責任者(CRO)であるギャビン・フィルモア氏は「ETFは消費者に直接販売される商品であるため、従来の障壁が取り払われている。私が商品を発売した瞬間に、自宅にいるすべてのトレーダーが購入することができる。スニーカーやポテトチップと同じだ」と語った。
タイダルと提携している発行会社のイールドマックスは、最初のETF発売から2年足らずで40億ドル以上の資産を管理するようになった。同社商品に特化したレディットコミュニティーには、毎日約1万人が参加しており、最も急成長している企業の一つだ。イールドマックスのファンドが提供する戦略のポートフォリオマネジャーであるジェイ・ペストリチェリ氏は「規制がこれを可能にした」と話した。
ペストリチェリ氏はトレーダーからの質問に答える30分間のユーチューブインタビューにしばしば出演する。「われわれは利回り追求型投資コミュニティーに直接出向き、さまざまな経路を通じて彼らと対話している。コミュニティーに直接語りかけることが、メッセージを広め、教育に役立つ最も効果的な方法だと考えている」という。
Wall Street Is Printing the ETF Products Like Never Before
Derivatives-based ETF launches in the US hits records
Source: Bloomberg
Note: 2024 numbers are year to date
インカム戦略に対するさまざまな反対論の一つは、株式市場の「利回り」はユーチューブの動画で見るほど単純ではないというものだ。高額な月次配当は事実だが、これは通常ETFの純資産価値の減少を伴う。
そのため、フロリダ州セントルーシー郡の法執行機関を3年前に退職したデビッド・ストリーター氏(57)は慎重な姿勢を示す。サンドストーン・キャピタルの創設者であるストリーター氏は配当を嫌っているわけではなく、配当分配金から安定した月次収入を得ている。しかし、イールドマックスTSLAオプション・インカムETF (
TSLY) への少額投資では、40%の損失を被り購入後間もなく売却せざるを得なかった。
しかし、こうした事実が熱狂を止めることはない。例えば、レバレッジをかけたエヌビディアファンドは、年初の2億ドルから50億ドルへと資産が急増している。
NEOSインベストメンツの共同創設者、トロイ・ケイツ氏は、配当金の支払いも大きな目的であるため、同社のETFが追跡する指数に対するパフォーマンスだけに注目するのは間違いだと言う。投資を選択する際にはトータルリターンを考慮すべきだとも指摘。「結局のところ顧客はそれぞれの投資に伴うリスクを理解する必要がある」と述べた。
投資家自身が慎重であることを期待するのは間違いではないが、インカム商品の素晴らしさを声高に主張するリテール応援団がいるため、市場の専門家たちは自分たちの声がかき消されてしまうのではないかと懸念している。
JPモルガンのライナー氏は、投資手段としてのETFを評価しつつも、「ETFなら何でも良いというわけではない」と述べた。
原題:
‘100%’ Yields Are Fueling a Retail Boom in New Quick-Buck ETFs (1)(抜粋)





