2019年3月の金曜の午後、香港の
シティグループの株式セールストレーダー8人は、何の警告もなくパソコンから締め出された。 その後すぐに、別々の会議室に呼ばれ、不正行為を理由に解雇すると告げられた。
シティのアジア太平洋地域株式責任者だったリチャード・ヘイズ氏から手渡された書類には、トレーダーらが特定の株式ポジションについて顧客を欺いたと記述されていた。
事情に詳しい関係者によると、トレーダーらは机の上を片付ける機会も与えられずにシティのオフィスがある「シティバンクタワー」から退去させられた。
電話や電子メッセージ、その他の対面のやり取りを通じて顧客から注文を受けて執行するハイタッチ型の株式セールストレーディングデスクを、シティがアジアで解体してから5年が過ぎた。同行は今もその余波への対処を強いられている。
一連の騒動により、シティや世界中の同業者が直面する問題に注目が集まった。銀行が規則違反を犯した場合、誰が責任を取るべきなのか。
19年3月に香港で解雇された1人、フィリップ・ショー氏は「トップレベルでの監督が機能していなかったにもかかわらず、経営陣とコンプライアンス(法令順守)担当者が責任を問われなかった理由を問いただすべきだ」と電話取材に対して述べた
シティはシンガポール、ロンドン、東京でもアジア株のセールストレーダーを解雇した。
香港証券先物委員会(HKSFC)は22年に、シティに3億4830万香港ドル(約67億円)の制裁金を科し、同社のアジア市場部門に「まん延する不正行為」を指摘した。
HKSFCによると、シティのトレーダーらは少なくとも10年にわたり、特定の株式の売買に対する顧客の需要が実際には存在しないにもかかわらず、需要があるかのように見せかけることを行っていた。
HKSFCは、不祥事の根本原因は、収益と市場シェアの拡大をトレーダーに強要した上層部にあると指摘した。
ヘイズ氏は20年にシティグループを退職しているが、香港の裁判所の資料によるとHKSFCは同氏についても規制上の措置を下しており、ヘイズ氏はこれを不服として上訴している。ヘイズ氏とHKSFCはコメントを控えた。
事情に詳しい関係者によると、解雇されたシティのセールストレーダーの多くは、他の大手優良銀行での再就職に苦労したり、以前の収入よりもはるかに少ない給与の小規模な証券会社での職を受け入れたりしている。
シティの広報担当者はブルームバーグ・ニュースの取材に対し「当行はこの過去の遺産ともいえる問題に対処するため、コンプライアンスと内部統制を強化するための大幅な改善策を実施した」と説明した。
少なくとも3人の元セールストレーダーが、シティを相手取り訴訟を起こした。規制当局が問題のある慣行を指摘した後、シティが不当かつ敵対的な内部調査を行って自分たちをスケープゴートにしたと主張した。
シティ側は、調査は社内規定に従って実施されたと反論している。
ロンドンで解雇されたトレーダーは、約2カ月前に英国の判事が不当解雇を認める判断を下したことを受け、シティと
和解した。
東京では7月に、20年に解雇されたトレーダーに対し判決が出るまで雇用契約で定められた給与を支払うよう裁判所がシティに命じた。広報担当によると、シティは控訴している。
香港で解雇されたトレーダーの1人が起こした不当解雇訴訟の結果はまだ出ていない。
Citigroup's Revenue Breakdown
For the first nine months of 2024
Source: Company's third-quarter results
問題となったのは、シティのアジア株セールストレーダーが、特定の株式における買い手と売り手の取引需要の予備的な表明である、いわゆる「関心度指標(indications of interest、IOI)」を作成する方法だった。証券会社はIOIのリストを作成し、潜在的な顧客からの問い合わせを誘うための広告として使用する。
投資家は通常、証券会社が仲介者となって買い手と売り手を引き合わせる「仲介取引」を好み、証券会社が自己勘定で株式売買の相手方となる取引を好まない。
シティに対する不当解雇訴訟から、問題の期間におけるアジア株トレーディングデスクの内部事情の一部が明らかになった。解雇されたトレーダーたちは、自分たちが処罰された慣行は長年にわたり上層部によって暗黙の了解として容認されていたと主張した。
事情に詳しい関係者によると、セールストレーダーたちは、ヘイズ氏が考案した「シティ10」という 取り組みの下、香港の主要10銘柄の取引をより多く成立させるようプレッシャーをかけられていた。
18年のブルームバーグとの
インタビューで、ヘイズ氏はシティアジア株式業務が金融危機以来最高の業績を達成するだろうと語っていた。
その年、HKSFCはシティのアジア市場部門の現地調査を実施し、一部の取引データと顧客との通信記録を検証した。
当局は、シティのセールストレーダーが特定の株式に対する顧客の関心が実際には無いのに、あるかのようにIOIで示すことが多かったことを発見した。IOIを見た顧客が取引しようとすると、シティの自己勘定取引部門が相手方になることがあった。
シティはHKSFCの検査後、独自の調査を開始した。
ロンドンのアジア太平洋地域ハイタッチデスクのディレクターだったイアン・ウィアー氏はこの社内調査の結果、誤ったIOIを配布し機関投資家に対して虚偽の説明を行ったとされ、21年6月に解雇された。
Revenue Sources
Most of Citi's markets revenue comes from fixed income-related activities
Source: Citigroup's 2023 annual report and 3Q 2024 results
Note: *includes rates and currencies, spread products and other fixed income. 2024 data is for the first nine months of the year.
英国の雇用審判所はシティがウィアーを解雇したことは不当だったと結論付けた。別の証券会社に転職しオーストラリアに移住した同氏はコメント要請に応じなかった。
香港在勤のセールストレーダーだったシンディ・ルイ氏は、新卒で入社して以来12年間シティで働いていたが19年に解雇された。同氏は昨年、香港の労働審判所に不当解雇の申し立てを行った。判決はまだ出ていない。
事情に詳しい関係者によると、他の解雇された従業員も、シティによる対応に納得がいかないでいる。関係者によると、株式セールストレーダーのほか、少なくともディーラー2人とファシリテーショントレーダー1人が解雇された。
人事リスク分析会社クリアフォースの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のトム・ミラー氏は、一連の騒動からはシティが「5年前に起こった問題に対処するために、多くの時間とリソースを費やし、評判を落としている」ことが分かると述べた。
企業が学ぶべきことは、問題がさらに大きな問題へと発展するのを防ぐための方針やシステムをどのように整備するかだとした上で「現時点では、すべてが教訓だ」と付け加えた。
原題:
Citigroup’s Firing of Sales Traders Haunts Bank Years Later (1)(抜粋)





