中国広東省を拠点とする起業家ライアン・シュさん(36)は、ドイツの自動車メーカーにとって理想的な顧客だった。
3人の子どもを持つ彼女と夫は「ポルシェ911」とメルセデス・ベンツの「Gクラス」を所有。10万ドル(約1500万円)超を投じ、ポルシェ初のフル電動スポーツカー「タイカン」をいち早く購入した。
しかし、馬力やハンドリングといった従来のセールスポイントよりも、テクノロジーの洗練度合いを重視する中国人消費者が増えるにつれ、彼女のドイツ車に対する見方は変わった。
シュさんはタイカンのソフトウエアシステムは「ひどい」と感じており、「ただの電動ポルシェだった。それだけだ」と言い放つ。
電動のタイカン(VWのイベント、北京で)
Source: Bloomberg 彼女の見方は特殊ではない。中国が内燃機関(エンジン)車から離れていく中で、フォルクスワーゲン(
VW)と
メルセデス・ベンツグループ、
BMWは、3社にとって最大かつ最も稼げる市場で顧客にアピールする電気自動車(EV)を提供しようと取り組んでおり、350億ユーロ(約5兆7000億円)の投資に賭けている。だが、3社は
先週、そろって中国での7-9月(第3四半期)の販売低迷を明らかにした。
BMWおよびMINI(ミニ)ブランドの納車台数は30%近く減少し、4年余りで最大の落ち込みとなった。メルセデスの納車は13%減った。「Sクラス」や「マイバッハ」などの高級車買い控えが響いた。
ポルシェの中国販売台数は19%減と、10年で最悪の
7-9月期業績だった。タイカンのグローバル需要はほぼ半減した。
ポルシェとアウディの親会社VWは15%の落ち込みを報告。VWの販売を統括するマルコ・シューベルト氏は、「中国での競争は特に激しい」と述べた。
German Automakers Are Losing Out in China's EV Shift
VW, Mercedes and BMW's market share slips as transition progresses
Source: Source: Bloomberg calculations using China Automotive Technology & Research Center data
Note: Chart shows combined share of Volkswagen, Mercedes, BMW and their subsidiary brands
ドイツの自動車メーカーはガソリンを大量に消費する時代を謳歌(おうか)したが、そうした市場に安住し、新たなライバルがもたらす脅威を過小評価。大型エンジン車から得られる利益を手放すことに消極的になっていた。
その結果、米
テスラに加え、比亜迪(
BYD)をはじめとする中国勢がEVで急速に追い上げ、今や中国の消費者はドイツ車を必要としないか、あるいは欲しがらなくなっている。
コンサルティング会社アリックスパートナーズのマネジングディレクター、スティーブン・ダイヤー氏(上海在勤)は、ドイツ勢にとって「今がターニングポイント」だと指摘。「彼らは市場戦略を劇的に変える必要がある」と述べた。
中国頼み
ドイツの自動車メーカーにとって次の課題は、今週パリで開催されている国際自動車ショーですでに示されている。
中国メーカーは欧州市場でのシェア獲得に向け取り組みを強化。BYDや
小鵬汽車などが、今年最大の欧州自動車イベントで最新テクノロジーを披露する。
ドイツ勢はBYDなど中国自動車メーカーの実力を過小評価
Photographer: Na Bian/Bloomberg シュさん一家はタイカンを売却し、蔚来汽車(
NIO)の「ET5」を購入した。この車は、シュさんが検討したメルセデスの「EQE」よりも3割ほど安かったが、より豪華な内装デザインとスムーズな音声コントロール、そして乗車時に子どもたちの名前を呼んでくれる機能を備えていた。
夫と共同で事業を経営するシュさんによると、そうしたテクノロジーの水準に「ドイツ車は到底かなわない」。メルセデスとBMW、アウディは「今や高級車とは見なされない」と彼女は話す。
German Automakers in Slow Lane on Digital Shift
BMW is the only German carmaker in global top ten on digital strengths
Source: Gartner
Note: Index measures progress on becoming a 'digital automaker.' Rankings first through seventh are in order. BMW is 10th, Mercedes 11th and VW 13th.
ドイツ勢は依然として中国市場で15%近いシェアを持つものの、新型コロナウイルス禍前は25%程度を占めていた。
さらに悪いことに、EVのシェアは10%にも満たない。すぐにでも好転しなければ、低迷は大敗に転じ、ドイツの「ビッグ3」は存続を賭けた闘いを迫られるリスクがある。現在ではVWもメルセデスもBMWも、時価総額はBYDの半分程度だ。
ドイツの自動車メーカーは他の国際ブランド以上に中国に力を注いでいる。競合他社の中には損失を減らしているところもあるが、ドイツ勢は諦めることなく、市場シェア回復を狙い経営資源をさらに投入している。
しかし、中国政府が自国メーカーの育成に積極的に取り組んでいるため、前途は多難だ。
VWは長期戦略を練っている。同社の広報担当者は、中国自動車市場は大幅な値引きが特徴で、収益性を犠牲にしてまで市場シェアを獲得するつもりはないと説明。
VWは長期的な展望を維持するため「中国で中国のため」の戦略を続ける方針だ。BMWとメルセデスも中国の買い手にアピールするため、現地化アプローチを堅持する計画。
VWの中国合弁工場
Source: Bloomberg 中国で低迷するドイツ勢が、それでも中国に倍賭けする理由は明白だ。欧州自動車市場はすでにピークを過ぎ、米国も飽和状態にあるため、同程度の規模と利益を確保できる代替市場は中国以外にはない。
ただ、ドイツメーカーの中国への入れ込みように対しては懸念が生じている。ドイツ勢は本国よりも多い40以上の工場ネットワークを運営。手放すにはあまりにも多額の投資だ。
ゼネラル・モーターズ(GM)や
スズキ、
三菱自動車がそうしたように、中国からの撤退などほとんど考えられない。また、政府系事業体との複雑な関係が絡み合っているため、再編は困難を極めるだろう。そのため、ドイツ勢の焦点は、中国人顧客が求めるような機能の開発に絞られることになる。
Chinese EV Models Are More Than a Match for Germany's Carmakers
Source: Bloomberg research
Note: Model variants were chosen that were most directly comparable
原題:
VW, BMW and Mercedes Are Getting Left in the Dust by China’s EVs (抜粋)





