岐阜県瑞浪市で廃校になった中学校がいま、日本の自動車メーカーにとって学びの場になっている。機械などを分解して構造分析するリバースエンジニアリングを事業とする米
ケアソフト・グローバル・テクノロジーズは、廃校を電気自動車(EV)設計の研究施設に変えた。
同社はクルマを分解して内部の革新的な技術を研究し、コスト削減を競合メーカーに提案する。黒板にチョークの粉が残る教室には、山積みの部品を調べる顧客らの姿がある。
体育館の床にはケアソフトが分解した米
テスラのクロスオーバー「モデルY」、中国の
比亜迪(BYD)のセダン「シール」、その他10台以上のEVの残骸が並ぶ。世界屈指の自動車メーカーである
トヨタ自動車でもうろたえるほどのさまざまな部品が置かれ、異質な光景だ。
ケアソフトの施設にはさまざまな部品が展示されている
Photographer: Shiho Fukada for Bloomberg Businessweek軽量化
EV事業成長の鍵はガソリン車を凌ぐ航続距離だ。車体の軽量化がこれまで以上に求められる中、トヨタは同社初の量産EV「bZ4X」でも、鋼鉄製の「クロスカービーム(#55330-42410)」を採用した。
ハンドルやダッシュボード計器を所定の位置に固定し、衝突時にキャビンを保護する役割を果たす部品で、ガソリン車の場合はボンネットの下に搭載される。数え切れないほどの改善を経てエンジンの振動が乗っている人に伝わらないよう設計された同社のクロスカービームは、トヨタ生産方式(TPS)の賜物だ。
とはいえ鋼鉄製で重く、EVの動力源であるモーターは振動しない。だからこそ、EVのトップメーカーであるテスラとBYDはビームをプラスチックで製造する。ケアソフトによると、プラスチック製のビームは約6.4キログラムとトヨタの約9.1キログラムより軽く、価格も安く、取り付けも簡単だ。
TPSの根幹をなす「カイゼン」、つまり小さな改善を積み重ねるという観点で物事を考えてきた人には理解しがたいかもしれない。だが、「内燃機関車からEVにカイゼンすることはできない」と、
ゼネラル・モーターズ(GM)の元幹部で、ケアソフト社長のテリー・ウォイチョウスキ氏は話し、「それがトヨタにとってのジレンマだ」と続ける。
未来の障害に
トヨタの製品構成は3分の2が内燃機関車、3分の1がハイブリッド車(HV)、0.1%がEVだ。長年のライバルである独
フォルクスワーゲン、韓国の
現代自動車、GMをさらに引き離し、24年には1100万台を販売したと推定される。一方、テスラは180万台、BYDは430万台だった。
ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生シニアアナリストは、トヨタの1100万台はさまざまな国々で顧客を獲得し、多くのモデルを揃えた結果だと話す。この規模の生産量を維持することは簡単ではなく、多くの自動車メーカーは600万台以下にとどまっていると指摘する。
しかし、家業の見直しを嫌う豊田章男会長の姿勢が、未来のクルマを創造する能力には障害となる可能性もある。TPSは分業や組み立ての合理化、外部サプライヤーへのアウトソースを促し、効率性を最大限に高めるのに寄与したが、始まって間もないEV関連のシステムには足かせとなりかねない。
発想の転換
テスラとBYDは製造施設をより安く、そしてモジュール化する一方、より多くの部品を社内生産する取り組みも進める。一つにはサプライヤーの製品棚に存在しない部品を設計するためだ。一般的なEVには約1万1000個の部品が使用されるが、
ゴールドマン・サックス・グループはこれはガソリン車の約3分の1だと推定する。
部品の内製は、技術に関わる機密保持を徹底するためでもある。こうすることで後発組が豊富な資金を持っていても、単にコピーして改良するだけでは対応が難しくなる。元トヨタ副社長で現在は日本科学技術連盟の理事長を務める佐々木眞一氏は「全く新しい考え方を取り入れていかないと、到底追いつかない」と話す。
トヨタはブルームバーグの質問に対し、トヨタの生産哲学は部品の設計や製造工程にとどまらず、間違いや失敗から学ぶ姿勢を体現していると回答した。同社の広報部長である入江晶氏は、トヨタは「改善は進化するためのチャンス機会と捉えている」と述べ、「TPSは考え方であって効率化のための手段ではない」とした。
トヨタのチーフ・テクノロジー・オフィサーを務める中嶋裕樹副社長は先週ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES」で、同社へのプレッシャーは強いが、それを乗り越える決意だと語った。中嶋氏は「現時点での大きな脅威は中国の競合企業だが、彼らを打ち負かすために当社の技術を強化していきたい」とした上で、「技術の80%は簡単に代替できるが、残りの20%が最も重要だ」と述べた。
何でも作る
瑞浪市の体育館を見れば、EVの未来にはカイゼンやTPSの制約下では考えられないような変化が必要なことは明らかだ。テスラの平らなバッテリーパックとシートを直接ボルトで取り付ける方法は、構造部品としても機能する。剛性の高いアルミニウム製電線管を使用することで取り付け時間も短縮した。
BYDには8つの電気パワートレイン部品を1つのモジュールに統合した自社製部品があり、これにはバッテリーの管理や、電気変換などのための統合ハードウェアやソフトウェアが含まれる。調査会社ヨール・グループによると、従来より重量とコストが約2割低減されているという。
ケアソフトのウォイチョウスキ社長は、「まるで彼らは何でも作っているみたいだ」と言う。「独自のバッテリーに、モーターや車体、フロントとリアのデザイン、ヘッドライト、ドアトリムパネル、コンソールまで自前だ。飛躍的な進歩だ。カイゼンには向かないだろう」。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:
Toyota’s Recent Success Is Getting in the Way of Its EV Future(抜粋)






