米国債は通常、金融市場の混乱期において世界で最も安全な資産とされる。しかし、ここ数日は株式相場が下落する中でも売られており、その「安全な避難先」としての役割に疑問符が付いている。
米国債は今週、新型コロナウイルス禍以来最悪の売りを浴びている。9日午前取引では3営業日続落し、10年債利回りは一時22ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇して4.51%を付けた。
これは市場混乱時の逃避先とされる従来の常識を覆す動きだ。発行体である米政府は借り入れた資金は必ず返済すると約束しており、その約束が破られたことはない。
投資家や市場参加者は、米国債が下落している理由についてさまざまな見解を示している。米経済の見通し悪化が原因だとみる人もいれば、ヘッジファンドによる取引の失敗を指摘する声もある。こうした理由のいくつかを以下にまとめた。
関税巡る不確実性
トランプ米大統領が示した関税の規模は多くを驚かせた。同氏がいつ妥協するのか、あるいは妥協することさえあるのかも不透明だ。さらに、これらの関税が米経済に与える影響についても問題視されている。
関税がリセッション(景気後退)を引き起こし、インフレが弱まれば、米金融当局は利下げに踏み切る可能性が高い。通常であればこれは米国債の魅力を高める要因となる。しかし懸念されているのは、関税が物価を押し上げ、成長鈍化に対応する米金融当局の能力が限られてしまうことだ。これは米国債にとってマイナス要因となる。こうした不確実性は、ボラティリティーが高止まりする公算が大きいことを意味する。
現金需要
投資家が米国債を含むあらゆる米国資産を敬遠し、リスクを減らす中、債券を手放しているだけという動きかもしれない。
そうなると、実質的な安全資産は現金だけとなる。米国のマネー・マーケット・ファンド(MMF)への資金流入は、4月2日までの期間に過去最高を記録した。MMFは現金に近い資産と見なされることが多く、時間とともに金利も得られる。
投資家はドル建て資金調達市場におけるストレスを注視し、ポジション解消の急増による歪み(ゆがみ)が生じていないか見守っている。2020年には、パニックに陥った投資家が債券の売りを急いだため、米国債市場が危機的状況となり、米金融当局が介入を余儀なくされた。
今のところ、資金調達市場は持ちこたえているように見受けられる。しかし、円・ドルの3カ月物ベーシススワップが昨年12月以来の水準に拡大しており、外国人投資家によるドル資金需要が高まっていることを既に示唆している。ユーロやポンドにおけるベーシススワップも、同様の動きを見せている。
財政のひずみ
米国の債務残高は現在、国内総生産(GDP)の121%に達している。トランプ氏は大統領就任時、減税で経済成長を加速させ、それによって債務と財政赤字を削減できると見込んでいた。最近では、関税による歳入も債務負担の軽減に役立つと示唆している。しかし一方で、同氏の政策はむしろ借り入れコストを押し上げることで、赤字と債務をさらに膨張させると懸念する声もある。
今週実施される国債入札は、市場心理を測る試金石と見なされている。8日に実施された3年債の入札は既に期待外れの結果に終わっている。
外国勢の売り
リアルタイムで証明するのは難しいが、米国債が下落する際には外国勢が売っているとの臆測が飛び交うことがしばしばある。今回は関税への対抗措置として起こっているとの見方に注目が集まっている。中国と日本は屈指の米国債保有国だが、公式データによれば、両国とも既にしばらく前から保有高を減らしている。
明治安田生命の北村乾一郎執行役員・運用企画部長は、中国が関税への報復措置として米国債を売却している可能性に言及した。
関連記事:
米国債の「投げ売り」が世界に連鎖、各国長期金利が急上昇
また、欧州や日本の投資家の間では、米国債以外にも信頼できる代替資産が出てきたとの認識が広がりつつある。自国の国債利回りが米国債よりも魅力的に見える水準になっており、政策見通しがより安定している本国市場に資産配分をシフトさせる投資家が増える可能性がある。
関連記事:
米国債に代わる逃避先、日本や欧州が浮上-トランプ時代の構造転換か
ヘッジファンドの取引
米国債の現物と先物の価格差から利益を狙う、ヘッジファンドに人気の戦略であるベーシス取引が巻き戻されつつある可能性があり、それが利回り急上昇を引き起こしているとの見方もある。
価格差が極めて小さいことが多いため、投資家は通常、レバレッジを効かして賭けの規模を増やす。市場の混乱でベーシス取引の経済性が覆され、投資家が借入金返済のためポジションを急に解消せざるを得なくなれば問題が生じかねない。20年に起こったような、利回りの急上昇や、さらに悪い場合には米国債市場の機能停止につながる連鎖反応を招く恐れがある。
関連記事:
米国債利回り急伸でベーシス取引の大規模解消に警戒感、コロナ禍級か
また、金利スワップよりも米国債の方が好パフォーマンスになると見込むヘッジファンドに人気の「スワップスプレッド取引」の崩壊が起きているとの指摘もある。スワップは米国債を大幅に上回るパフォーマンスを上げている。銀行は顧客の流動性ニーズに応えるための現金を確保するため保有米国債を売却せざるを得なくなったと同時に、債券相場が上昇した場合に備えて、金利が下がると利益が出るスワップを購入している。
関連記事:
ヘッジファンドの人気取引、崩壊が加速-スワップスプレッド急低下
原題:
The Many Reasons US Bonds Are Falling Despite Haven Status(抜粋)







