日本と中国はアジアの二大経済大国であり、域内最大の貿易相手国同士だ。だが、長年にわたり激しい競争の歴史を抱える日中が、経済的な結び付きを安定的に維持するのは難しい側面もある。
尖閣諸島周辺での中国の活動活発化や貿易制限、台湾海峡の平和と安定に対する懸念など、さまざまな問題が両国間にくすぶり続けている。
11月に入り高市早苗首相が国会答弁で台湾有事について、武力の行使も伴うものであれば、「
存立危機事態」になり得るケースだと考えると発言。これを受けて日中間の緊張が高まった。
存立危機事態の認定は、友好国を防衛するために日本が自衛隊を派遣する際の法的根拠となるため、重要な意味を持つ。中国は高市氏の発言を内政干渉だと非難し、撤回を求めたが、日本側はこれを拒否している。
外交的な対立が激化する中、中国は自国民に日本への渡航を控えるよう警告するとともに、
日本産水産物の輸入再開の動きを停止した。
高市早苗首相と習近平国家主席(韓国で10月31日)
Source: AFP日中関係の歴史
日本と中国は何世紀にもわたり、北東アジアにおける政治・文化の二大勢力として存在してきた。互いの言語や経済発展、食文化に影響を与え合ってきたが、19世紀後半に貿易が拡大する一方で政治的な摩擦も強まり、数々の武力衝突へと発展した。
日本は中国の一部を侵略・併合し、1930年代から第2次世界大戦にかけては、南京事件などを含む軍事行動を展開した。これらの出来事と現在も続く領土を巡る互いの主張が、両国関係に影を落としている。
上海に展開する日本兵(1937年10月)
Source: ullstein bild現在の火種
領有権を巡る対立は、日中関係において特に大きな火種の一つだ。東シナ海に浮かぶ尖閣諸島を、中国は釣魚島と呼び領有権を主張している。尖閣諸島の面積は合わせて約7平方キロメートル。
2012年に当時の野田佳彦首相が尖閣諸島の一部国有化を決定して以降、中国はほぼ毎日のように海警局などの公船を周辺海域に送り込んでいる。中国船の侵入回数は24年に過去最多を記録した。また、両国は周辺のガス田を巡っても対立している。
中国の軍事的影響力拡大も、日本政府にとって懸念材料だ。中国はロシアとの間で軍事協力の強化を進め、両国は海軍・空軍による共同演習を日本周辺で行っている。
日本の25年版防衛白書では、中国への言及が1000回を超え、中国人民解放軍の動向を「最大の戦略的挑戦」と位置付けた。
中国の軍拡などに対応するため、日本も防衛力を拡充している。22年に閣議決定した5年間の防衛力整備計画では、防衛費総額を約43兆円とし、対国内総生産(GDP)比で従来の1%超から2%へと引き上げられる予定だ。
高市氏はこの2%目標の達成に向け、防衛費を従来計画から2年前倒しで
増額する方針を示している。一方で中国は、日本が歴史の教訓を学ばず、軍国主義に回帰していると非難している。
尖閣諸島(中国名・釣魚島)
Source: Source: Kyodo News/AP Photo 24年には中国軍機が初めて日本の領空を侵犯し、中国側も日本の護衛艦が領海に入ったと主張。25年6月には日本が、中国の空母2隻と支援艦艇が太平洋上の離島付近で同時に活動したことを確認したと発表した。
台湾海峡
中国は台湾を自国の領土と見なし、必要であれば「祖国統一」のため武力行使も辞さないと公言している。
日本は台湾と正式な外交関係を持たないが、現状変更を試みる一方的な行動に反対し、台湾海峡を巡る問題は平和的に解決されるべきだとの立場を取っている。
日本の懸念は地理的な要因に基づく。台湾は日本最西端の与那国島から約100キロメートルの距離にあり、紛争が発生すれば東シナ海全体に容易に波及しかねないことを示している。
日本の歴代首相は、台湾有事の具体的なシナリオについては言及を避けてきており、この問題が日中双方にとって極めてデリケートであることを示している。
高市氏は、台湾海峡危機と自衛隊派遣の可能性を公の場で結び付け語った。これは、日本の現職首相としては数十年ぶりのことだ。高市氏が政治の師と仰ぐ故安倍晋三元首相も、中国に対しては強硬姿勢を取っていたが、台湾という微妙な問題にはおおむね慎重だった。
日本は近年、台湾有事や地域紛争拡大への懸念を背景に、南西諸島沿いに地対艦ミサイルを配備するなど防衛体制を強化している。
一方、中国の軍艦や海警局の船は尖閣諸島付近への侵入を頻繁に繰り返している。22年には、中国が台湾周辺で数十年ぶりの大規模軍事演習を実施した際、
弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。
日中貿易の現状
1970年代後半以降に中国の市場開放が進む中で、
パナソニックホールディングスや
トヨタ自動車など日本企業は現地に生産拠点を設け、拡大する中間層向けの販売を進めた。
このほか日本企業は、中国を安価な労働力の供給地として活用。「ユニクロ」を展開する
ファーストリテイリングなどが現地に工場を設立、または中国企業から製品を調達して日本や海外で販売した。
現在、日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国にとっても日本は米国に次ぐ重要な貿易相手となっている。だがその関係は急速に変化している。
中国企業は自動車やエレクトロニクスといった高付加価値製品の分野で日本企業と直接競合し始めており、日本は完成品よりも中国への部品供給国としての性格を強めている。
オンライン格安通販SHEIN(シーイン)をはじめとする中国の消費者向けブランドは日本市場への進出を加速。比亜迪(
BYD)などの電気自動車(EV)メーカーは、中国国内のみならず世界的に日本の自動車メーカーの脅威となっている。三菱自動車や
日本製鉄など、一部の日本企業は中国事業から撤退、または縮小している。
全体として、日本の
対中投資は減少傾向にある。日本企業にとって中国での事業環境は、政治問題に巻き込まれるなどかねてから予測の難しい状況が続いてきた。
さらに改正された反スパイ法など厳格な規制が企業の投資意欲をそぎ、個人も渡航を控える傾向が強まっている。また近年相次いだ日本人の拘束事例も、そうした懸念を一段と深めた。
追い打ちをかけているのが、米国の要請を受けた輸出規制だ。
東京エレクトロンや
ニコンなど日本のハイテク企業は、最先端半導体の製造に必要な装置や化学品の対中輸出を制限する措置の影響を受けている。
対立激化が招くリスク
高市氏は10月末に韓国で習主席と会談し、「
戦略的互恵関係」の推進で一致。だがその合意は現在、崩れかねない状況にある。
中国国営メディアは11月中旬、政府が「実質的な報復に向けた十分な準備を整えた」と伝え、想定される措置として、制裁のほか、経済・外交・防衛関係者の交流停止や貿易制限などが含まれる可能性を示唆した。
中国はその後、日本産水産物の輸入を停止する意向を示した。中国は23年に同様の禁輸措置を導入し、
大部分を今年解除していた。しかし、中国税関のデータによると、日本からの出荷額は今年1-9月でわずか50万ドル(約7900万円)にとどまり、低調な状態が続いている。
さらに重要な懸念は、中国がレアアース(希土類)供給網での支配的地位を「武器化」する可能性にある。これは過去にも用いた手法だ。
日中が10年余り前に尖閣諸島を巡り対立した際、中国はレアアース輸出を一時的に停止した。レアアースはスマートフォンや自動車をはじめ、さまざまなテクノロジーに不可欠な資源だ。
中国外務省が自国民に対し、当面は日本への渡航を控えるよう警告したことで、日本の観光業にも大きな影響が及ぶ可能性がある。主要銀行を含む一部の国有企業もこの方針に同調し、香港も日本への渡航勧告を更新した。一方で日本政府は、中国に滞在する日本人に注意を呼びかけている。
中国人観光客は、日本を訪れる外国人全体の約4人に1人を占める。観光庁のデータによれば、7-9月期には外国人旅行者の中で最も多く消費し、訪日客の総消費額2兆1000億円のうち約27%を占めた。
中国教育省も、日本への留学を予定している中国人学生に対するリスクが高まっている可能性があると
警告した。日本学生支援機構(JASSO)は今年4月、24年に日本で学んだ中国人留学生は12万3485人に上ったと報告。全体の37%を占め、最大の出身国だという。
今回の日中対立は、両国の経済活動にも打撃を与えかねない。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によると、24年末時点で中国本土および香港で事業拡大を検討している日系企業の数は過去最低を記録。
それでも中国は依然として、日本の機械や自動車、化学製品の主要な輸出先だ。また日本は、中国企業が自国内で生産できない半導体製造装置や関連資材の重要な供給元となっている。
経済的な影響力という点で、日本よりも優位に立っているように見える中国だが、慎重な見極めが必要だ。
拙速な強硬策に出た場合、特に重要鉱物への制限を加えたりすれば、日本の同盟国である米国を巻き込む可能性もある。レアアースの供給問題は、これまでも米中間で摩擦の原因となってきた。
原題:
Why Close Trade Partners China, Japan Can’t Get Along: QuickTake (抜粋)
— 取材協力 Jing Li and Dan Murtaugh






