米金融業界で「ゴキブリの目撃」が増えている。自動車ローン会社トライカラー・ホールディングスと自動車部品メーカーのファースト・ブランズ・グループの相次ぐ経営破綻にくわえ、融資基準の甘さを批判する業界幹部の
発言で投資家の警戒感が強まるなか、今度は
地銀2行が不正の疑いがある融資の問題を明らかにした。
一見すると、こうした事案は共通点の乏しい個別事例に映るかもしれない。だが、過熱した融資の波に乗って資金を調達してきた企業で詐欺疑惑が相次ぐなか、共通する構図が次第に浮かび上がりつつある。
これが投資家の不安をかき立てている。新たな不正が発覚するたびに、地銀やノンバンクを通じ、一見健全な融資にも連鎖的な影響が及び、損失が金融システムの核心部へとドミノ倒しのように広がっていくことが懸念されるからだ。
16日には、マイアミ拠点の資産運用会社777パートナーズの共同創業者ジョシュ・ワンダー氏が、5億ドル(約750億円)規模の詐欺容疑で起訴された。本人は容疑を否認しているが、同社の元最高財務責任者(CFO)は罪を認め、検察当局に協力している。
米銀最大手JPモルガン・チェースは、トライカラーの破綻に関連して1億7000万ドルの貸倒損失を計上した。同行のジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は近年、警戒心の強いウォール街の古参戦士としての役割を担い、同行が特段の損失を出していない局面でも、市場の潜在的なリスクに繰り返し警鐘を鳴らしている。
14日の決算説明会でトライカラーとファースト・ブランズについて質問を受けた際も、歯に衣着せなかった。「ゴキブリを1匹見たら、恐らく他にもいる。この件は誰もが警戒すべきだ」と語った。
その2日後には、地方銀行のザイオンズ・バンコープとウェスタン・アライアンス・バンコープに関するニュースが市場を動揺させた。両行のケースでは、疑惑の中心はいずれも同じ人物たちだった。アンドリュー・ステューピン、ジェラルド・マーシル両氏らが関係する投資ファンドが、商業用不動産ローンの不良債権を購入する資金として融資を受けていた。トライカラーやファースト・ブランズの場合と同様に、関係者は不正の疑いを否定している。両行の損失額は他の事例に比べればはるかに小さい。しかし、「ゴキブリ」の存在が意識されるなかでは、規模の大小は問題ではなくなる。
そもそも、最初から不正を働くつもりで経済活動を始める人はほとんどいない。多くの場合、資金繰りに行き詰まったり、欲が出たり、あるいは小さな問題を抱えたときに、つい「小さな嘘」でその場をつくろってしまう。こうして生じたバランスシートの穴は次第に広がり、やがて埋めようのない深い裂け目へと変わっていく。また現在の金融環境は、人々を不正や逸脱行為に走らせやすい状況にある。今年の市場は、インフレ率や金利の先行きに対する不透明感を背景に激しい変動を繰り返している。 米国が次にどの国や地域を関税の標的にするのか見通せない状況では、市場の視界が晴れることもないだろう。
新型コロナ禍に対応するための公的資金の洪水が資産価格ブームをもたらしていなければ、状況はこれほど危険にはならなかったはずだ。潤沢な資金供給が続いた結果、一部の投資家や企業は過剰なリスクを抱え、わずかな誤算や小さな衝撃にも脆弱になっている。それでも多くの投資家や企業は、こうした混乱をいずれ乗り切れると期待している。 過去10年余り、中央銀行が市場の動揺のたびに資金を投入して下支えすることが常態化していたためだ。
今週は金融市場の緊張が高まるなか、銀行に代わって企業に資金を供給するプライベートクレジット業界に批判の目が向けられた。JPモルガンのダイモン氏は同業界のリスク審査能力に懸念を示し、これに対し、オルタナティブ資産運用会社ブルー・アウル・キャピタルのマーク・リップシュルツCEOは、銀行は自らの帳簿に「
ゴキブリ」がいないか確認した方がいいかもしれないと述べた。
しかし最も重要なのは、こうした両者のあいだでリスクが伝播する可能性だ。その主な経路となり得るのがノンバンク向け融資で、近年急拡大している。大手銀行にとって最も資本効率の高い融資手段の一つであることが背景にある。この分野には多様な借り手が含まれており、必ずしもリスクの高い先ばかりではない。
JPモルガンのアナリストによると、プライベートクレジット運用会社向けの融資規模は比較的小さい。2024年末時点では、ノンバンク向けの総融資残高(約1兆ドル超)のうち1000億ドル未満にとどまっている。
だからといって安心できるわけではない――。JPモルガンで投資銀行業界を担当するアナリスト、キアン・アブホセイン氏はそう警鐘を鳴らす。ノンバンク向け融資は近年、極めて急速に拡大しており、融資基準の緩みを招きやすい。さらに問題なのは、こうした機関は監督が及びにくく、規制の抜け道を利用しやすい点だ。アブホセイン氏は今週のリポートで、「2023年には、ファースト・リパブリック銀行やシリコンバレー銀行(SVB)でも同様のリスクが見られた。監督不備と規制の抜け道が原因で見過ごされた」と指摘している。
貸し手、投資家、預金者の間にも透明性の欠如がある。こうした不透明さは、事態が悪化し始めたときに混乱や不安をさらに増幅させる。
これらの問題の一部は新たなものであり、世界金融危機以降の金融システムの構造変化に関連している。しかし、いくつかの問題は古くからの構造的な課題でもある。19世紀の経済学者ウォルター・バジョットは、「どの金融危機も、それまで誰も気づかなかった過剰な投機を暴き出す」と1870年代に記している。「物価が高く景気のよい時期には不正が生まれやすい」、「そうした時期は巧妙な嘘をつくには格好の機会になる」とも同氏は書いている。
現時点では、これら事例のいずれも不正が立証されたわけではない。 しかし、「ゴキブリの影」がちらつく不穏な気配は看過できない。
(ポール・デービス氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:
Dimon’s Cockroaches Keep Appearing: Paul J. Davies(抜粋)
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